IT産業が急成長のセルビア、「西バルカンのシリコンバレー」目指す取り組み

セルビアのIT産業が急成長している。特に同国は先進各国の企業のアウトソーシング先として注目されており、直近の8年間で年率20%の高い成長率を示している。一方、IT分野における世界的な人材不足のため国内の人材が外国企業に流出しており、同国IT産業の将来の懸念材料となっている。政府は状況を打開するため、人材育成と研究開発のエコシステムを国内に生み出そうと対策を実施していく予定だ。

セルビアにおける昨年1年間のIT部門の売上高は22億ユーロ。国内総生産(GDP)の5.2%を稼ぎ出したことになる。IT製品の90%はドイツ、英国及びオーストリアに輸出されるほか、昨年からは隣国のボスニア・ヘルツェゴビナや北マケドニアへの輸出も伸びている。

同国には米マイクロソフトが首都ベオグラードに開発センターを持つほか、ノビサドには農業に関するIT開発を行うビオセンス研究所(BioSense Institute)や、独自動車部品大手コンチネンタルのソフトウエア開発センターがある。また同じく独自動車部品大手のZFが年内にベオグラード近郊に水素エンジンの工場と開発センターを開設することを予定している。

■国内の人材流出問題、政府は循環型システムの創出で対応

大きく成長している同国のIT産業だが懸念材料もある。ソフトウエア、通信、サービスのアウトソーシング先として外国企業の発注に大きく依存する状況に加え、近年は世界的なIT人材の不足を背景に、外国企業が同国のソフト開発者の引き抜きを図っていることが大きな課題となっている。

同国のIT産業の労働者の数は5万6,000人で、うち2万5,000人がソフト開発に従事する。開発者の平均月給は1,450ユーロでセルビア全体における平均月給の480ユーロを大きく上回るが、外国企業にとっては低廉なコストで雇用でき魅力的だ。

こうした状況を受け、政府は最近になりIT分野における頭脳流出を避けるため同国を「西バルカンのシリコンバレー」とする方針を打ち出した。2020年にかけて教育と研究開発に1億ユーロを投じ、国内にスタートアップ企業の持続的な循環型システムを創出する方針だ。同国の企業が自前でサービスを提供したり、他企業と提携して新事業を開発したりしていくことが期待されている。

■小学校のIT教育義務化などを定めた「デジタル・セルビア」イニシアティブ

またデジタル産業のさらなる活性化を図るため、政府は設備投資や人材育成を推進していく予定だ。大学の電気工学科やベオグラードのテクノロジーパークにIT設備を新たに導入するため今年中に予算550万ユーロを計上しているほか、デジタル産業に関連した中小企業を育成するため、政府は「デジタル・セルビア」と名付けたイニシアティブを発動し、科学と経済を密接に結びつけようとしている。

「デジタル・セルビア」では研究教育省と協力し、この3月からインダストリー4.0(製造業のデジタル化)とビッグデータに関する職業訓練プログラムを開始した。同省の予算額は1,100万ディナール(9万3,000ユーロ)。学生に企業内でコンピューターとデータ分析・管理に関する講義を受講させるほか、小学校5年生からの情報学に関する教育が義務付ける。またスタートアップの活性化に向け2億5,000万ディナール(210万ユーロ)をかけて支援していく予定だ。(1RSD=1.04JPY)

上部へスクロール