ユーロ圏19カ国は9日に開いた財務相会合で、新型コロナウイルスの感染拡大が経済に及ぼす影響を最小限に抑えるため、総額5,400億ユーロ規模の経済対策を実施することで合意した。ユーロ圏の金融安全網である欧州安定メカニズム(ESM)の活用が柱となる。一方、「コロナ債」と呼ばれる共同債を発行する計画については、加盟国間の溝が埋まらず、合意は見送られた。
ESMは本来、金融危機に陥ったユーロ圏の国に支援を行う機能を持つ。財務相会合ではESMの4,100億ユーロに上る融資枠を新型コロナ対応に活用し、各国の要請に応じて予防的な特別信用供与枠を設けることで合意した。供与枠は各国の国内総生産(GDP)の2%が基準で、総額は約2,400億ユーロに上る。
このほか、◇欧州連合(EU)の政策金融機関である欧州投資銀行(EIB)が域内中小企業の資金繰りを支えるため特別基金を創設し、2,000億ユーロの融資を保証する◇欧州委員会の提案に基づき、域内の雇用維持に向けた1,000億ユーロの基金を設立し、EU各国が雇用を守る企業に手厚い助成を行えるようにする――ことでも合意した。
ESM活用は、新型コロナの感染拡大が経済に大打撃を与え、マイナス成長となることが避けられない情勢となっている中、各国が対策に巨額の財政出動を迫られることで債務危機が生じ、国債の利回りが急上昇することなどを防ぐのが狙い。新型コロナウイルスの感染が危機的な状況に達しているイタリア、スペイン、フランスなどが強く支持してきた。しかし、3月26日に開かれたEU首脳会議では、無条件での供与を求めるイタリアなどに対して、経済改革実施を義務づけるという条件が必要とするオランダが難色を示し、合意に至らなかった。
テレビ会議方式で開かれた今回の財務相会合では、初日の7日に16時間にわたって協議が行われたが合意できず、9日に再会合を開くことになった。同日の会合では、コロナ危機に際して各国の結束強化を呼びかける独メルケル首相が、直前にイタリア、オランダの首脳らと根回しを行い、調整を進めた結果、オランダが折れて厳しい条件なしでの信用供与に同意。これにより、新型コロナウイルス対応に用途を限定するという緩やかな条件でESMを活用できることになった。
コロナ債はイタリア、スペイン、フランスなど9カ国が提唱しているもの。ユーロ圏共同債を発行し、コロナ危機で苦境に陥っている国の財政を支援するのが目的だ。これに関してはドイツ、オランダなどが、受益国の債務を肩代わりすることになりかねないとして強く反対しており、今回の会合でも合意できなかった。
ただ、各国は新型コロナウイルス感染が収束した後の域内経済の再建を支援するため「リカバリー・ファンド(回復基金)」という基金を設立することでは合意。採択された共同声明に、その実現に向けて「革新的な金融手段」を用いるという文言が盛り込まれ、同問題をEU首脳会議で協議することになった。このためイタリアとフランスは、共同債発行計画は白紙でなく、実現のチャンスがあると期待感を示している。
EUのミシェル大統領(欧州理事会常任議長)は10日、加盟国が23日に開くテレビ首脳会議で同問題を協議すると発表した。