欧州連合(EU)と1月末にEUを離脱した英国の自由貿易協定(FTA)など将来の関係の構築に向けた交渉が20日に再開された。しかし、EU側が求める公平な競争環境の確保など重要分野での対立が解消せず、24日まで5日間にわたった協議で進展はなかった。交渉期限が迫る中、妥結の糸口さえ見つからない状況で、英国が期限延長に応じるかどうかが目下の焦点となってきた。
EUと英国は3月2~4日に1回目の交渉会合を開いた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、その後は交渉が事実上ストップ。15日にテレビ会議方式で交渉を再開することで合意していた。双方の首席交渉官を交えた正式な交渉は2回目となる。
最大の焦点となるFTAに関しては、双方とも関税セロでの貿易の継続を目指すことで一致している。英政府はEUとカナダが締結した協定と同様のFTAを念頭に置く。「カナダ方式」では、同国はEUのルールに合わせなくても、ほとんどの関税が撤廃されるためだ。
しかし、EU側はこれまでの密接な関係から英国がEU単一市場に及ぼす影響はカナダなどと比べてはるかに大きく、公平な競争環境の確保が不可欠として、関税ゼロの維持には英国がEUの競争法や公的補助、環境、労働者の権利などに関するルールに従うことを要求。これに対して英国側は、EUが他の国とのFTA交渉でこのような要求をした前例はないとして抵抗している。今回の交渉でも溝は埋まらず、EUのバルニエ首席交渉官は24日、交渉終了後に発表した声明で、「英国は同問題について真剣に協議することを拒んだ」と述べ、失望感を表明した。
もうひとつの大きな対立点が漁業権をめぐる問題だ。EUの共通漁業政策から離脱する英国が、自国水域でのEU漁船の操業権を制限することを警戒するEU側は、FTAと連動して交渉し、現状維持を確保することを求めている。しかし、英国側は一連の交渉と切り離し、毎年の交渉によって双方の漁船の操業権について取り決めることを要求。今回の交渉でも主張を譲らなかった。
英国は1月31日にEUを離脱したが、20年12月末までは移行期間となるため、貿易など基本的な関係は変わらない。同期間中にFTAや安全保障、外交、司法での協力など幅広い分野にまたがる将来の関係をめぐる交渉をまとめる必要がある。ただ、英国側は6月までに交渉が進展しない場合は、決裂を前提にFTAなしでの貿易開始に備えることに集中する方針を打ち出しており、移行期間が延長されなければ実質的な交渉期限は6月末となる。
しかし、すでに新型コロナウイルス感染拡大の影響で交渉が遅れているほか、双方ともコロナ危機対応に追われている。今後は5月11日、6月1日の週に交渉が行われる予定だが、2回の交渉会合で大きく進展する可能性は極めて小さい。このため、バルニエ首席交渉官は移行期間の延長を拒んでいる英国側に「延長を拒否できる状況ではない」と述べ、延長に応じるよう呼びかけた。
EUと英国の離脱条件を定めた協定では、英国側が6月末までに申請し、EUが合意すれば、移行期間を22年12月末まで延長することが可能となっている。