2020/5/13

総合・マクロ

WIIW、東欧経済見通しを下方修正

この記事の要約

国別でみると、地域内でも経済規模の大きいロシア(7%減)、トルコ(6%減)で縮小幅が大きくなる。

これらの国では財政赤字が拡大し、経済成長がマイナスとなることで、GDP比の国家債務が大きく膨らむ。

具体的には、◇消費行動が変化し、消費者が貯金を増やす◇超低金利が2008年の金融危機後よりも長く続く◇国家債務減少に向けて増税が実施される(累進課税の導入もありうる)◇東欧の多くの国が西欧企業の生産・サービス業務の移管先となりうる◇経済のデジタル化の動きでバルト諸国やチェコ、スロベニアが活躍する――といったシナリオが考えられる。

ウィーン国際経済比較研究所(WIIW)は6日に発表した最新の東欧経済見通しで、2020年の同地域23カ国の域内総生産(GDP)伸び率をマイナス6.6%とし、従来のプラス1.1%から7.7ポイント下方修正した。新型コロナウイルス流行をめぐる動向を勘案したもので、縮小幅は世界金融危機で市場が底を打った2009年の5.6%を上回る。景気後退からの回復も金融危機時より鈍く、来年の成長率は2.8%(2010年:4.4%)にとどまる。

国別でみると、地域内でも経済規模の大きいロシア(7%減)、トルコ(6%減)で縮小幅が大きくなる。輸出や観光業への依存度が高いクロアチア(11%減)、スロベニア(9.5%減)、スロバキア(9%減)、モンテネグロ(8%減)は特に打撃が大きい。

一方、輸出・観光業への依存が比較的小さいコソボ(4.4%減)とモルドバ(3%減)、経済支援に向け大規模な財政出動を実施するポーランド(4%減)、カザフスタン(3%減)、セルビア(4%減)は景気後退幅が小さい。チェコ(4.8%減)など、都市封鎖(ロックダウン)措置を早期に解除できた国も比較的影響が軽い。

景気後退リスクは甚大で、特に資本流入に依存するウクライナやモルドバ、多くの西バルカン諸国への打撃は大きい。国外からの送金や国外直接投資(FDI)、証券投資が激減し、国際通貨基金(IMF)や欧州復興開発銀行(EBRD)など国際金融機関の支援が重要になる。

東欧地域で政府支出を大幅に増やせる国は少なく、多くの国は国外からの資金調達に限界がある。これらの国では財政赤字が拡大し、経済成長がマイナスとなることで、GDP比の国家債務が大きく膨らむ。

リスク要因としては、◇コロナウイルス流行拡大◇ワクチン開発の遅延◇世界3大経済圏である米国、中国、欧州連合(EU)における政治的失策――があり、危機がさらに拡大する懸念は強い。

中期的には、今回の危機がプラスに働く可能性もある。具体的には、◇消費行動が変化し、消費者が貯金を増やす◇超低金利が2008年の金融危機後よりも長く続く◇国家債務減少に向けて増税が実施される(累進課税の導入もありうる)◇東欧の多くの国は西欧企業の生産・サービス業務の移管先となりうる◇経済のデジタル化の動きでバルト諸国やチェコ、スロベニアが活躍する――といったシナリオが考えられる。