ドイツでは農業、食肉処理などの業界で東欧出身者がたくさん働いている。重労働で地元の人にはなり手がなく、東欧からの働き手がいないと仕事が回らない職場が多い。それにもかかわらず、労働条件や居住環境は劣悪で、相談所などが以前から改善を求めてきた。しかし、政府が動いたのは奇しくも新型コロナウイルスの「おかげ」だ。ある屠畜場で新型コロナウイルスの集団感染が発生したのを機に、大手屠畜場に労働者の直接雇用を義務付ける法案が閣議決定されたのだ。
東欧からの労働者の多くは、下請け企業を通じて就業している。請負契約では処理頭数当たりで報酬が定められており、下請け企業が追加手当なしで労働者に残業を強いるケースも珍しくない。解雇保護や安全配慮義務、衛生基準の順守も下請け企業が責任をとることになっている。
居住環境の悪さも下請け制度に起因している。下請け業者は仕事と宿泊所をセットにして仲介し、月300ユーロの「宿泊料」を給与から天引きする。といっても部屋ではなく、寝場所(=ベッド)が割り当てられるに過ぎない。同じベッドを複数で使う「シフト制」が導入されていることさえある。当局の立ち入りが難しい民間アパートを「共同宿舎」とすることで検査を免れている。
政府は大手だけにでも直接雇用を義務付け、労働法の抜け穴を狭めたい意向だが、食肉業界は「経済的負担の増大」を理由に反発しており、法案が骨抜きになる可能性も指摘されている。