新型コロナウイルスの感染予防にと、ルーマニアの靴職人が身体的距離が確保できる「コロナ靴」を考案した。つま先部分が長く伸び、その全長は75センチ。話し相手も同じ靴を履けば、1.5メートル以上には近寄れず、「密接」が避けられるというわけだ。
考案したのはルーマニア北西部クルジュ・ナポカに住む靴職人グリゴーレ・ルプさん(55)だ。バルカン半島の伝統の革靴「オピンチ」を主に手がけ、オペラ座や劇場、映画業界、伝統舞踊団に供給してきた。
しかし、コロナによる緊急事態発令で3月半ば以来、仕事が途絶えた。ようやくロックダウン(都市封鎖)措置の緩和が始まったが、屋内でのマスク着用義務、スーパーの入り口での体温測定、そして、身体的距離の確保と、守らなくてはいけないルールは多い。
しかし、ルプさんによると、ルーマニアの人は集まってきりなく話すことが多く、知らず知らずのうちに距離が縮まってしまう。これを防ぐにはどうしたらよいかと考え、暇なこともあり、「コロナ靴」を作るに至った。
流行の第2波が来ることに備え、夏靴だけでなく冬靴もデザインした。フェイスブックで公開したところ話題になり、電話が鳴りやまない。といっても、注文ではなく取材の電話がほとんどだ。
実際のところ「コロナ靴」は数メートル歩くのがやっとで、実用とはかけ離れている。それでも「コロナによる非日常の思い出に」とか、「がんばって履く」という客の注文が入っているという。
ルプさんは「売ろうとは思っていなかったからびっくりした」と笑う。「話題になれば、距離をとらなくてはいけないことを思い出す人が増えるだろう」ぐらいに考えていたのだという。何はともあれ、話題作りは大成功。結果はルプさんの思惑通りとなった形だ。