チェコで航空宇宙関連技術を活かした新事業創出が盛んだ。同国に置かれている欧州宇宙機関(ESA)の2つのインキュベーション施設を中心にスタートアップ企業などが関連技術を利用した新事業に乗り出しており、過去4年間で立ち上げられた事業数は25、総投資額は2億4,000万コルナ(約900万ユーロ)に上っている。
ESAは同国のプラハとブルノにビジネスインキュベーションセンター「ESA BIC」を持つ。同センターは宇宙関連プログラムから生まれた技術を用いてスタートアップ系のプロジェクトを支援することを目的としている。これまでに衛星データを用いて殺虫剤を散布するアプリや、芸術作品を分析するX線装置、グラファイト(黒鉛)製の超軽量自転車などの開発が進められてきた。
同国の投資促進機関でESA BICを運営するチェコインベストによると、現在の入居企業数は13。これまで実施されてきたプロジェクトの多くは国内のスタートアップによるものだが、スロバキア、スイス、フランスといった欧州諸国のほか、エジプト、インド及び米国企業も事業を手掛けている。
ESA BICはプラハに拠点を置く欧州全地球航法衛星システム監督庁(GSA)と協力し、欧州の宇宙関連技術の開発拠点としてのチェコの評価を高めてきた。チェコインベストのレイフル最高経営責任者(CEO)によると、スタートアップ企業の多くがGSAに関連する地球の観測データと衛星データの分野に重点を置いているのが特徴だ。
ESA BICのスタートアップはこれまでに多くの成功例がある。芸術作品の分析にレントゲンを用いる技術を開発するInsightARTは同社の技術を用いてムンクとゴッホの作成した絵画を新たに発見した。民生用ドローンを開発するドローンタク(Dronetag)は欧州委の支援する衛星航法システムに関するビジネスコンテスト、「ガリレオマスターズ」で賞を受賞するなど成果を上げている。触覚の相互作用を生み出すデバイスなどを開発した仮想現実(VR)機器の開発企業、VRgineersの製品は宇宙飛行士のトレーニング用に米国航空宇宙局(NASA)に納入された。またプラハの施設に入居するVaristerは欧州と米国の地球観測衛星であるセンチネルとランドサットから送られるデータを分析し、農業の環境負荷の低減を図っている。収穫高と収入の分布図の作成に向けて衛星データを時系列データなどの情報と組み合わせることが可能だ。(1CZK=4.70JPY)