ウクライナが仮想通貨・ブロックチェーンの高い技術力を有することは意外と知られていない。モバイルバンキングの利用が盛んで、プログラマーの人材も豊富だ。ウクライナの同分野での実情を同国ブロックチェーン業界に詳しいパヴェル・クラフチェンコ氏の話として、米『フォーブス』の電子版が伝えた。
■進む金融機関のデジタル化
クラフチェンコ氏によると、ウクライナでモバイルバンキングの利用が浸透している大きな理由は「インスタントカード」の存在だ。早くから料金無料・非課税でカード決済ができるようになり、現金を使わない決済に国民が慣れていった。
すでに多くの金融機関が技術革新を進め、IT改革に取り組んでいる。業界大手のプリヴァートバンクがデジタル基盤に莫大な資金を投じたのに続いてモノバンクも大型投資を実施。物流ノバポシュタの決済アプリのようなノンバンクアプリも登場し、スマホを通じた銀行サービスや取引、低料金の個人間送金が普及した。
仮想通貨(暗号資産)の普及関連では、政府が「バーチャル資産法」の整備を進めている。暗号資産を含めたデジタル資産の取り扱いの枠組みを定める試みだ。しかし、他の資産もデジタル化が進んでおり、バーチャル資産をどう定義するかは容易ではないという。
■ブロックチェーンの導入は一進一退/電子政府とデジタル通貨は端緒に
同氏によると、政府はここ10年ほど、ブロックチェーン技術の可能性と有用性を探ってきた。企業や政府機関で革新を目指した関連プロジェクトが十数件スタートしたが、継続中のものは新規仮想通貨公開(ICO)分野に集中する。企業の多くは国際プロジェクトに参加するか、スイス、ドイツ、米国、シンガポールなどにプロジェクトの拠点を移している。
2016年にはブロックチェーンを用いたマルチ取引プラットフォームで構成するエコシステムを形成する試みがあった。土地投機所の競売システム構築プロジェクトといったものもあったが、官僚主義が障害となり、停止に追い込まれた。このプロジェクトは民間セクターでよみがえり、国内の中古車取引に利用されている。
公的セクターにおけるこれまでの成果としては、政府系競売機関CETAMがオンライン競売にブロックチェーン技術を導入したことや、国立銀が分散型台帳の開発に向けた公共入札を実施したことなどがある。電子署名は2002年以来、法的効力を持ち、税務申告や政府ポータルでの認可手続きに広く利用されている。しかし、金融業界では処理手順の非効率や世界的な規準が存在しないために、応用が進んでいない。
デジタル化省は今年3月、電子政府アプリを公開した。銀行で本人確認を行い、ダウンロードした電子版のパスポートと運転免許証に効力を付与した。また、新型コロナ流行を受けて、自主隔離者のトラッキングにも使われた。
世界の中央銀行が中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)の調査を進めているが、ウクライナ国立銀行は2017年にデジタル通貨の概念実証(PoC:新規事業におけるコンセプトの検証を目的とした、試作開発の前段階における検証やデモンストレーション)を試みた。今年にはこれをテーマとする国際イベントを開催し、プロトタイプを発表している。
■IT人材の豊富さが強み
クラフチェンコ氏はまた、ウクライナの強みはIT人材で、英語に堪能な開発者が20万人以上存在すると話す。数学教育に力を入れており、IT技術の社会への新党を受けてか、中学・高校では数学の人気も高まっている。
プログラマーを志す人も多い。人気の秘密は、給料が比較的高く、起業家向け優遇税率(5%)の適用が受けられるためとみられている。また、自由を好み、国際的な知識の共有を大事にする国民性も国外との交流・協力にプラスに働いている。
一方、関連法の整備が不十分であることがウクライナを「ハッカー天国」にしているが、開発時の制約が小さいという事実が仮想通貨・ブロックチェーン分野の発展にも役立っていると言える。