2020/11/11

総合・マクロ

トルコの金融政策転換に希望、中銀総裁解任と財務相辞任で

この記事の要約

トルコにおける中央銀行総裁解任と財務相辞任で、同国金融政策の転換に市場の期待が高まっている。レジェップ・エルドアン大統領の意向をくんだ低金利政策で通貨リラ安、高インフレ、経常赤字の悪化が続くなか、総裁交代を利上げの前触れ […]

トルコにおける中央銀行総裁解任と財務相辞任で、同国金融政策の転換に市場の期待が高まっている。レジェップ・エルドアン大統領の意向をくんだ低金利政策で通貨リラ安、高インフレ、経常赤字の悪化が続くなか、総裁交代を利上げの前触れととらえる見方は強い。ただ、大統領が新総裁にどれだけ裁量の余地を認めるかは不透明で、19日の金融理事会の決定に注目が集まる。

エルドアン大統領は7日未明、ムラート・ウイサル中央銀行総裁を突然解任し、ナジ・アーバル大統領顧問(予算問題担当)を新総裁に任命した。リラ安が止まらないことへの批判をかわす狙いとみられている。

これに続いて、翌8日にはベラート・アルバイラク財相がインスタグラムを通じ「健康上の理由で」辞任すると表明。9日に運輸相、開発相などを務めたリュトフィ・エルヴァン氏が後任に選ばれた。

アルバイラク財相は2018年7月に就任。エルドアン大統領の娘婿でもあり、大統領の後継者とさえ目されていた。しかし、景気の悪化で野党だけでなく与党・公正発展党(AKP)内でも失策を批判する声が強まっていた。このため、自身との不仲で知られるアーバル氏が中銀総裁に任命されたこと、さらにこの人事について事前に知らされなかったことが辞任のきっかけになったとみられている。

アーバル氏は就任にあたり、「焦点課題である物価安定を達成するため、あらゆる手段を用いる覚悟」と語った。また、「コミュニケーションを改善し、わかりやすく、予測可能な政策手段を選んでいく」として市場・経済関係者との対話を重視する姿勢を示した。

アーバル氏は、行政学と経営学を修めて1990年代に財務省に入省し次官の座まで昇りつめた。15年の選挙で国会議員に当選、18年のアルバイラク氏就任まで財相を務めた。大統領に近い人物の中では、インフレに利上げで対応する古典的な手法を支持する数少ない一人。このため、市場は金融引き締めへの転換を期待している。

一方、エルヴァン新財相は鉱山学を修めたエンジニアで、2007年以来、議員を務める。13年から15年まで運輸相、15年から16年まで副首相、16年から18年まで開発相を歴任した。

人事の交代で金融・経済政策の転換が期待されるのは当然だが、期待が現実となっても、トルコの状況が改善するには一定の時間がかかる。リラ安は今年も継続し、対米ドル為替相場は年初比でおよそ30%低下した。中銀による市場でのリラ買い介入規模は、ゴールドマン・サックスによると毎月120億ドルに上り、年初からの8カ月で外貨準備高が1,000億ドル減った。これにより準備高がマイナスに陥ったとさえ言われる。一方でトルコ経済は外国からの投資に頼る部分が大きく、現状のままでは外貨建て債務の償還が困難になると危惧される。経済・金融の安定にはインフレ率を下回っている政策金利を大幅に引き上げることにはじまり、多角的かつ継続的な金融・財務政策を実施する必要がある。