クロアチアが製造業やハイテク産業を中心とする産業刷新(リ・インダストリアリゼーション)に取り組んでいる。観光産業に大きく依存する同国経済は新型コロナウイルス流行に伴う需要の落ち込みに苦しんでおり、特にサービス産業や食品・飲料業界での影響が深刻だ。政府は産業の多角化やデジタル化を通じて経済構造の転換を図っており、外国投資家も同国のメーカーやスタートアップに目を向け始めている。
政府の掲げる投資促進策は投資先となる産業の多角化を目的としたもので、それにより経済的なリスクを小さくする狙いがある。クロアチア経済は従来、工業生産や研究開発の拠点としては注目が薄かった。だが同国は西欧とバルカン地域の間に位置する地の利があるほか、2013年の欧州連合(EU)加盟により域内市場への入り口となる環境も整った。国民の教育水準も高く、近年には交通インフラの整備も進んでおり投資家には魅力的だ。
ユーゴ内戦が終了した1995年以降、同国への直接投資(FDI)は急激に増加した。ウィーン世界経済研究所(WIIW)によると、2019年のFDI総額は262億ユーロ。国民1人当たりではポーランドとルーマニアを上回った。最大の投資国はオーストリアで全体の23.6%を占め、これにルクセンブルク(12.8%)、ハンガリー(12.2%)、イタリア(10.9%)、ドイツ(9%)と続く。部門別で最も大きな割合を占めたのは金融・保険の24.1%で、以下、製造業が僅差の23.6%、小売りが10.6%、観光・宿泊が8.2%、不動産が8.0%、ITが7.7%だった。製造業では石油精製、医薬品、食品・飲料・タバコの比重が大きい。また観光業は今後も外国投資家を惹きつけるものとみられている。
外国投資家は工業やハイテク産業など観光以外の分野にも目を向けるようになっており、現地企業への投資が進んでいる。独工作機械大手ハルブルグ・フロイデンベルガーが機械メーカーに投資しているほか、高級車大手のポルシェは電気自動車(EV)スーパーカーメーカーのリマック(Rimac)に出資している。IT関連では昨年9月にスウェーデンのスティルフロントグループがザグレブのゲーム開発会社ナノビットを1億3,500万ユーロで買収した。
同国のスタートアップ企業では、農業管理システムのアグリビ(Agrivi)、IT企業のインフォビップ(Infobip)、フィンテックのオラディアン(Oradian)が注目されている。このうちインフォビップは昨年11月、米国のモバイルメッセンジャー開発企業オープンマーケットを2億5,000万ユーロで買収する計画を明らかにしている。