チェコが隕石衝突の危機にさらされ、世界の研究者が知恵を合わせて回避する方法を検討している――というとびっくりしてしまうが、まずはご安心を。これは現実ではなく、米航空宇宙局(NASA)の惑星防衛会議で行われた訓練のシナリオに過ぎない。ただ、その結果が「大型隕石の地球衝突を避ける技術が十分ではない」となると、一概に安心はできない。
NASAと欧州宇宙機関(ESA)などは先月、5日間にわたり上記の前提に基づき訓練を実施した。次第に小惑星の大きさや軌道、衝突する確率などがはっきりとするなか、様々な国の研究者や技術者が集まって対策を検討した。しかし、ロケットや核兵器など地球にあるどんな技術を使っても、6カ月後に迫った衝突を避けることはほぼ不可能で、被害地域の住民を事前に避難させることしかできなかった。
シナリオでは、大きさ35~800メートルの隕石がドイツとオーストリアに近いユネスコ世界遺産に指定されているチェスキー・クルムロフ付近に落ちるとされた。衝突の威力は核爆弾並みで、チェコ領でみると、プラハまで「生き残り不可能」なエリアに入る。
現在分かっている限りでは、地球に衝突しそうな小惑星はない。ただ、甚大な被害を引き起こすとされる大きさ140メートル以上の小惑星のうち、確認されているのは3分の1に過ぎないと推定される。
実際、昨年7月に最接近したネオワイズ彗星の大きさは4,800メートルだったが、発見されたのは最接近の4カ月前。2013年にチェリャビンスク上空で隕石が爆発したときや、19年に小惑星「2019OK」が地球と月の距離の5分の1以下まで接近したときは、事前にそれらしい情報は存在しなかった。
人類が地球近傍天体(NEO)を観察する能力は十分でなく、見つかるのは、高性能望遠鏡がたまたまNEOのある方向を観察しているときだけだ。このため、NASAは2年前に小惑星観察を目的とする「NEO監視ミッション」を発表。高性能望遠鏡を設置し、ESAのテストベッド望遠鏡、イタリアのフライアイ望遠鏡と連携し、小惑星の観測精度を高める方針だ。