モルドバのエネルギー危機回避、ロシアからの天然ガス調達契約延長で

●モルドバへの供給途絶は親欧派の現政権への圧力か

●ガスの安定調達に向け、先月はロシア以外から初購入

ロシア国営ガスプロムは10月29日、モルドバへのガス供給契約を5年延長することで合意したと発表した。暫定契約が同月末に期限を迎える直前に交渉が成立し、モルドバはエネルギー危機回避に成功した。

延長契約には、ガスプロムのアレクセイ・ミレル社長と、モルドバのアンドレイ・スピヌ副首相兼社会基盤・地域開発相、ガスプロムとモルドバ政府、沿ドニエストル共和国産業省の合弁会社モルドバガスのヴァディム・チェバン社長が調印した。

取引価格は、モルドバ側の提案した方法で計算される。詳細は明らかにされなかったが、タス通信が消息筋の情報として伝えたところによると、10~3月は価格の7割を原油相場に、3割を天然ガス相場に連動させる形で、4~9月は逆に7割を天然ガス相場に、3割を原油相場に連動させる形で決められるという。1,000立方メートル当たりの価格は最高500~600米ドルになり、従来の契約条件に比べると2倍に上昇する可能性がある。スピヌ副首相は、11月の取引価格を450ドル前後と見込む。

モルドバは天然ガス需要を全量、ロシアからの輸入に頼っており、従来契約は今年9月に期限が切れた。ガスプロムは契約延長の条件として債務70億9,000万ドルの返済を求めたが、貧しいモルドバには無理な要求だ。国際政治の専門家は昨年の大統領選で親欧派のマイヤ・サンドゥ大統領が選出されたこと、この夏の議会選挙でも大統領の支持基盤である「行動と連帯(PAS)」が絶対多数を抑えたことを受けて、モルドバへ圧力をかける目的だったとみている。実際、ガスプロムは10月の1カ月間、暫定的にガス供給を継続する条件として、価格を昨年の平均価格(約200ドル)の4倍近い790ドルへ引き上げていた。

ガスの安定調達が危ぶまれるなか、モルドバ政府は先月14日に30日間の緊急事態を宣言し、他の調達先を模索。16日にはウクライナを経由してポーランドのPGNiGから100万立方メートルを購入した。量的にはわずかだったが、モルドバにとってはロシア以外からの調達に成功した初めての例となった。モルドバでは昨年、隣国ルーマニアと首都キシナウを結ぶガスパイプラインが完工しており、これを経由して国内需要の約半分を輸入できる態勢を整えている。

今回の契約延長では、債務について金額・返済方法などを継続協議することでも合意をみた。また、モルドバ政府は「政治的な取り決めは含まれない」とし、ロシア側に政治的譲歩は行わなかったと言明した。

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