2021/12/8

総合・マクロ

新たな成長モデルが求められる中東欧=WIIWレポート

この記事の要約

●西欧へのキャッチアップ型の成功モデルは限界に●イノベーションに基づく新しい経済モデルの創出が必要製造業を中心に着実に成長してきた中東欧諸国が課題に直面している。最近では独フォルクスワーゲン(VW)グループがチェコ工場の […]

●西欧へのキャッチアップ型の成功モデルは限界に

●イノベーションに基づく新しい経済モデルの創出が必要

製造業を中心に着実に成長してきた中東欧諸国が課題に直面している。最近では独フォルクスワーゲン(VW)グループがチェコ工場の生産台数を減らすなど、世界的な半導体不足が同地域の製造業を直撃した。自動車など製造業への依存度が高い中東欧諸国の産業は依然として労働集約型で、電気自動車(EV)の普及やデジタル化など産業構造の大きな変化を受けて今後の対応が迫られている。

■中東欧の典型は核心技術を握る外資中心の輸出主導型成長

ウィーン国際比較経済研究所(WIIW)が11月末に発表したレポートによると、チェコの部品メーカーを含む自動車産業は国内総生産(GDP)の10%、輸出の20%を占め、18万人を雇用する。同国は中東欧諸国に多くみられる外資中心の輸出主導型成長の例だといえる。

同レポートによると、ポーランド、チェコ、ハンガリー及びスロバキアは1990年半ばから西側企業の生産を補完する場として労働集約的な生産工程を担い、西欧に追いつこうと大幅なキャッチアップを図ってきた。しかし同レポートは、そうした成功モデルは限界に直面していると指摘する。脱炭素やデジタル化といった経済の大きな構造変化を踏まえ、イノベーションに基づく新しい経済モデルが必要だとの見方だ。それを通して、西欧諸国の生産性と生活水準まで到達することが可能だとしている。

だが問題は、核心技術や高い付加価値を生む工程は西欧の企業が握っていることにある。欧州連合(EU)に加盟済みの中東欧諸国も依然として安価な賃金を利用した労働集約的な産業に依存している。EVが普及しガソリン車が淘汰されれば多くの雇用が失われる可能性もあり、レポートではそのコストは社会的にも経済的にも大きいと警告している。

■外資主導の収益構造からの脱却を

産業構造に加え対内直接投資と輸出への依存度が高いのも課題だ。中東欧のEU加盟国への対内直接投資の流入額は、2010年から2019年の期間、平均するとGDPの2.6%に上った。チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、ルーマニアではそのうちの30%が製造業に集中していた。財とサービスの貿易に関わる生産額と雇用は全体の20%から30%を占める。チェコ、ラトビア、ルーマニア、スロバキアでは製造業で生み出される付加価値の半分が現地に進出した外資によるものだ。しかし同レポートは、コロナ禍に際し西側企業が近隣での生産にシフトする「ニアショアリング」によって中東欧に利益がもたらされるとしても、外国企業による対内直接投資が成長エンジンとして今後も大きな役割を果たすことはもはやないとの見方を示す。

このため中東欧は将来に備え経済モデルを変える必要がある。脱炭素化、デジタル化、労働人口の減少に対応することが重要だが、特にポーランドのように石炭依存の国にとってグリーン革命は大きな課題となっている。

経済構造の刷新は環境関連技術とデジタル化への大きな投資があって初めて可能だ。そのため教育、研究開発への投資と労働市場政策を積極的に動員する必要がある。コロナ後の経済再建を目指すEUの基金「次世代EU」は規模の点でも重点分野の選択においても転換点となるものだ。しかし、財政赤字と国債発行を制限するEUの安定・成長協定の適用に柔軟性を持たせることができなければ、財政出動による投資を増やすことはできないと同レポートは指摘する。

今後は対内直接投資への依存から脱却するため戦略的な産業政策を打ち出し、グローバルな競争力を持つ企業を後押しする必要がある。それを通して民間部門、大学、主要官庁などを国家のイノベーションシステムに組み込むことができる。特にインダストリー4.0(I4.0)に代表されるデジタル技術を地域全域にわたり導入することが欠かせない。同地域の若者の多くがEU全域で通用するデジタル技術関連資格を取得する必要がある。

■中東欧の変身は近隣の独やオーストリアにも有益

中東欧諸国が新しい成長モデルへの移行に成功することは近隣のドイツやオーストリアにとっても大きな意義がある。新しい成長モデルによって経済的な相互依存関係も変わり、企業の立地や研究開発機関、IT技術者をめぐる競争が激しくなるが、それは両国にとっても有益だ。

レポートは、ドイツとオーストリアの企業は今後も生産の多くを中東欧諸国のEU加盟国で行い利益を上げるとの見通しを示している。1億人以上が住む中東欧諸国の所得水準の向上は両国の企業の製品需要の増加にもつながる。「次世代EU」を通してEUが中東欧諸国の景気テコ入れを支援することで、両国にプラスの波及効果がもたらされる。グリーン経済やデジタル経済への転換が成功すれば、中東欧諸国の重要性はさらに高まるとの見立てだ。