●裁判官の懲戒制度廃止など条件に、総額354億ユーロを拠出
●再可エネ、水素、高速インターネット、5Gインフラなどに活用
欧州委員会は1日、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた経済の立て直しを支援する復興基金からポーランドへの総額354億ユーロの拠出を承認した。ただし、司法の独立性担保に向け、裁判官の懲戒制度を廃止することなどが条件となる。拠出を実施するには4週間以内に閣僚理事会の承認を得る必要があり、ポーランドの取り組みが不十分と判断された場合、脱炭素化やデジタル化を柱とする復興計画にさらなる遅れが生じることになる。
ポーランドは2021年5月に国家復興計画を欧州委に提出し、コロナ禍からの経済再建を支える総額7,500億ユーロの復興基金から返済不要の補助金と融資を合わせて359億7,000万ユーロの拠出を求めた。復興基金は大半の加盟国に対して21年から予算執行されてきたが、ポーランドに関しては、法の支配の順守を予算配分の条件とする規定(20年12月に採択)に基づき、欧州委による審査が長引いていた。
欧州委が承認したポーランドに対する拠出は、239億ユーロの補助金と115億ユーロの融資。同国は分配される資金を活用し、再生可能エネルギーの利用促進、水素技術への投資拡大、高速インターネットの普及、第5世代移動通信システム(5G)のインフラ整備、医療施設の近代化などを進める計画だ。
欧州委のフォンデアライエン委員長は声明で「復興計画の承認は、司法の独立性に関するポーランドの明確なコミットメントが条件となる」と強調。復興基金から拠出が行われる前に、懲戒制度の廃止や、同制度の下で不当に罷免された裁判官の復職などを実現する必要があると指摘した。
懲戒制度をめぐっては、ドゥダ大統領が2月、最高裁内部に設置された裁判官の懲戒処分を管轄する機関(Disciplinary Chamber)を廃止する法案を発表。ポーランド下院は5月26日、同法案を賛成多数で可決した。こうした動きが欧州委の判断につながったと考えられるが、実際は政治任用を受けた裁判官が懲罰権を持つため、懲戒機関の廃止は形式的なものにすぎないとの指摘もある。
EUとポーランドは「法の支配」をめぐり対立を深めていた。ポーランドでは2015年の総選挙で愛国主義的な色彩の強い「法と正義」が政権を掌握して以来、違憲判決を出すのが難しくなるよう憲法裁判所の仕組みを変えたり、最高裁判事の人事権を政府が掌握するための法改正を行うなど、政権による司法介入を強める制度改革が進められてきた。
欧州委はポーランドの司法制度改革がEUの基本理念である法の支配に反するとくり返し警告したが、18年には裁判官の懲戒制度に関する法律を導入し、最高裁内部に懲戒機関を設置した。政府の意向に反する判決を阻止する狙いであることは明白で、欧州委は21年3月、EU司法裁に提訴。7月にはEU法違反の判決が出たが、ポーランド政府が懲戒制度の見直しに応じなかったため、司法裁は10月、懲戒制度の停止命令に従うまで1日100万ユーロの制裁金を支払うよう命じた。