●合併実現後の売上高は約300億ドルとなり、国際大手の一角に
●両社の合併構想は2008年にも報道
ロシアの非鉄金属大手ノリリスク・ニッケルの親会社で複合企業グループのインターロスのウラジーミル・ポターニン最高経営責任者(CEO)はこのほど、ノリリスク・ニッケルが同国のアルミ大手ルサールから合併提案を受けたことを明らかにした。現地経済紙『RBC』によると、同氏は交渉に応じる意向を示している。
ポターニンCEO率いるインターロスはノリリスク・ニッケルの株式35.95%を、ルサールは26.25%を保有する。ルサールは自社株の56.88%を保有する富豪オレグ・デリパスカ氏のエン・プラス社の他、ビクトル・ベクセルベルグ氏とレオナルド・ブラバトニク氏のSUALパートナーズを主要株主としている。
ノリリスク・ニッケルはニッケルとパラジウムに加え、銅、プラチナ、コバルト、ロジウム、金、銀、イリジウム、セレニウム、ルテニウム、テルリウムを採掘している。ルサールはボーキサイトを採掘し、酸化アルミニウム(アルミナ)およびアルミニウムを生産している。
売上高179億ドルのノリリスク・ニッケルと120億ドルのルサールが合併すれば、アルミニウム、銅、鉄鉱石などを生産する英豪系のリオ・ティント(635億ドル)、ニッケル、銅、鉄鉱石などを生産する豪BHP(610億ドル)、ニッケル、鉄鉱石、銅、マンガンを生産するブラジルのバレ(Vale、544億ドル)、ニッケル、マンガン、プラチナなどを生産する英米系のアングロアメリカン(415億ドル)などに匹敵する巨大企業となる。
ウェブ紙『bne IntelliNews』によると、ロシアの非鉄金属メーカーは世界市場に深く浸透しており、対ロ制裁の影響は大きい。そのため米国はパラジウム、ロジウム、ニッケル、チタン、アルミ原料など戦略的に重要な金属に対する輸入関税引き上げを行っていない。
ポターニン氏とデリパスカ氏は最近まで個人制裁の対象となることを免れていた。デリパスカ氏とルサールは一旦制裁の対象とされたが、ロンドン金属取引所(LME)のアルミ価格が急騰した後、米国外国資産管理局(OFAC)は同氏に対する制裁を解除した。この制裁解除は2014年の導入後初めてのケースだった。またポターニン氏に対する制裁が導入された今年4月にはニッケル価格が2倍になり、LMEは売買停止に追い込まれるなど市場への影響が出ていた。
ノリリスク・ニッケルは電気自動車(EV)に不可欠なニッケルとパラジウムを生産していることから制裁措置の適用を免れてきた。しかし英国政府は今年6月、ポターニン氏に対する制裁を導入した。一方のルサールも制裁の対象となっていなかったが、英国と欧州連合(EU)はデリパスカ氏を制裁対象に加えた。
『bne IntelliNews』によると、ノリリスク・ニッケルのキャッシュフローは悪化している。ポターニン氏は配当を減らしてパラジウム鉱床などの開発に投資することを主張してきたが、キャッシュフローを同社からの配当に依存しているルサールはポターニン氏の提案に反対してきた。
2021年にはノリリスク・ニッケルの配当政策についてポターニン氏と同社の間で論争が再燃した。ノリリスク・ニッケルは配当を減らす一方、20億ドルの自社株買いを提案していた。
ノリリスク・ニッケルは純負債倍率1.8倍、最低支払額10億ドルとした場合、営業利益(EBITDA)の60%以上を配当として支払うことで株主と合意しているが、ポターニン氏はその合意の期限が切れる今年末以降は延長せず、両社の合併が可能になるとの見方を示している。
ルネサンスキャピタルのアナリストは、合併後は短長期的な需要動向から見て製品のバランスがとれたものになると評価する。脱炭素に寄与するアルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、二酸化炭素(CO2)排出量削減に貢献するパラジウムなどが含まれるためだ。
両社の合併については2008年にも一部で報じられていたが、ウクライナ戦争開始後に再燃した。脱炭素など環境負荷削減に対する対策の強化や国からの支援の増加などに対する期待が背景にある。
前出のアナリストは、両社のシナジーは生産面では期待できないものの、金属・鉱山分野の「ナショナルチャンピオン」になることができると話す。
ポターニン氏は『RBC』に対し、英国政府が自身に課した経済制裁は個人に関わるものでありノリリスク・ニッケル自体には影響がないと述べた。