黒海に異変が起きている。この数週間でイルカの死体が数千体も岸に打ち上げられたのだ。専門家は戦争との関連性を指摘し、生態系が長期的な被害を受けるとみている。
オデッサの南西にあるトゥズラ潟湖国立公園のイヴァン・ルセフ研究長のもとには、毎日のように黒海沿岸に打ち上げられたイルカの写真が送られてくる。ウクライナだけではない。ジョージアやルーマニア、ブルガリア、トルコからも届く。ロシアのウクライナ侵攻以来、約3カ月で、このようにして見つかったイルカは少なくとも3,000頭に上るという。普通は1年で1,500頭というからケタ違いだ。
ルセフ部長は、この原因が戦争にあると確信している。例年見つかるのは、漁網にかかって死んだ個体で、刺し傷が確認できることが多い。しかし、開戦以降は、爆弾や水雷の被害とみられるやけどがあったり、身体には傷がない個体が多いという。外傷がないイルカの死因は、爆発音や軍の音波探知機(ソナー)が雑音となり、方向感覚が失われたためと説明する。イルカが自ら音を出して自分の位置や外界の様子を認識しているためだ。
ウクライナ環境省の委託で調査をしている研究員の一人、パヴェル・ゴルディン氏(動物学・シュマルハウゼン研究所)によると、環境被害では、ミサイルや船の燃料も害を与える懸念がある。陸上でも、生物多様性の宝庫である湿地帯をはじめとして、動植物の生活圏が爆撃や火災によって破壊されている。
例えば、クリミア半島の北東にあるアゾフ海沿岸地域はさまざまな野鳥の繁殖地として知られるが、戦闘による破壊が激しい。これらの野鳥は、アゾフ海から北西方向、ドニプル川に沿ってキエフの北を通りロシア国境に至る地域に分布しているが、これらの地域も激戦地だ。
戦時の自然保護は難しい。戦闘のため、現地に入って調査はできない。人手も足りず、自然への影響を訴えるしかない。
カナダに本部を置く国際動物愛護基金(IFAW)は最近、国際レベルで戦時の自然保護に関する取り決めが結ばれなければならない、また、戦争犯罪として「生態系破壊(ecocide)」を訴追できる法整備が必要と訴えた。
IFAWはさらに、アフリカの戦闘地域と同じように、密猟が広がる可能性にも触れて警鐘を鳴らしている。