新型コロナウイルス流行を受けた外出制限が続くロシアで、IT大手ヤンデックスの
事業バランスが変化している。主力のオンライン広告と配車事業が低迷する中、宅
配事業が大きく伸び、グレッグ・アボフスキ最高執行責任者(COO)が「おこがま
しいと思われるかもしれないが、2〜3カ月のうちにフェデックス(Fedex)のよう
な貨物大手へ成長できる可能性がある」と言うほどだ。一方で提携を結んでいる国
営ズベルバンクとは次第に競合する関係になりつつある。
「ロシアのグーグル」と呼ばれてきたヤンデックスは近年、事業の多様化を推進。
配車サービスのウーバーを市場撤退に追い込んだほか、電子商取引(EC)サイト、
人工知能(AI)アシスタント「アリサ」、映画ストリーミング配信サービス「キノ
ポイスク」を立ち上げ、「ロシアのアマゾン」への転身を図っている。
しかし、政府による新型コロナ対策の関連で、◇モスクワでカーシェアリング仲介
サービス「ドライブ」が営業停止◇4月のオンライン広告売上が前年同月比で17〜
19%減少◇ウーバーとの合弁会社の流通取引総額(GMV)も4月に前年同月比で
60%、前月比で70%、それぞれ減少◇合弁会社の株式公開(IPO)延期——といっ
た影響を被った。
一方で、◇モスクワにおける宅配アプリの登録利用者数が3月以来、75%増加◇
ネット検索、ブログ投稿、動画ストリーミングの利用増加——といった恩恵も得て
いる。宅配サービスの強化に向けては、配車サービスに登録する運転手を宅配分野
に配置するなどの措置をとっている。また、「自己隔離インデックス」と銘打っ
て、道や店舗の混み具合を示すサービスも開始した。さらに、コロナウイルス・テ
ストの配達プロジェクトなどに2億5,000万ルーブル(340万米ドル)を支出する計
画だ。
投資会社アトンのアナリスト、ヴィクトル・ディマ氏は、新型コロナウイルスに関
連する「制限が解除された後、(ヤンデックスの)成長ペースが急激に上がる」と
予想する。「ユーザーがデジタルサービスに慣れ、食品の宅配やEC、メディアを利
用する頻度が高くなる」からだ。
他方で、ヤンデックスの「アマゾン化」進行で、政府とヤンデックスとの関係の複
雑さも顕在化している。昨年には政府が企業統治の根幹に関わる問題について事実
上の拒否権を得たほか、取締役会に代表2名を送り込んだ。
ヤンデックスは「政府の影響はない」としている。ただ、反体制運動家がナビゲー
ションアプリのコメント機能を利用し、マップ上で政府官庁の壁に抗議の言葉を残
した際、「本来のテーマからそれている」という理由で迅速に消去した例があり、
政府に配慮したものという見方が残る。
ズベルバンクとの提携では、共同で立ち上げたECサイト「ベル」の稼働前から「離
婚」が噂されている。あるズベルバンク取締役によると、ヤンデックスが元々の検
索サイト運営から経営の多角化を図っているのと、ズベルバンクが潤沢な資金を投
じてデジタル化戦略を推進しているのを考えれば、「両社がぶつかるのは避けられ
ない」もようだ。(1RUB=1.46JPY)