チェコの富豪ダニエル・クレチンスキー氏は5月29日、英郵便事業者ロイヤルメー
ルの親会社インターナショナル・ディストリビューション・サービシズ(IDS)の
買収で合意した。傘下の投資会社EPグループを通じ、1株当たり3.70ポンドで取得
する。取引額は35億7,000万ポンドに上る見込み。
英国で最古かつ代表的な機関であるロイヤルメールが海外投資家の手に渡る今回の
取引を巡り、国内では数千人の雇用と国家的インフラの根幹部分を揺るがす事態に
不安が広がっている。EPはこうした懸念に対処するため、英国内で週6日、定額料
金で郵便物を配達することを義務付けるロイヤルメール規制の遵守をはじめ、従業
員の福利厚生や年金の維持、ロイヤルメールの本社と税務基盤を英国内に留めるこ
となどを約束している。
クレチンスキー氏はロイヤルメールの歴史と伝統を最大限尊重するとしたうえで、
IDSは欧州最大の郵便物流グループになる可能性を秘めているが、「市場は急速に
変化している」ため、競合のサービスに追いつくためには事業の近代化が不可欠と
付け加えた。同氏のプライベート・エクイティ会社ヴェサ・エクイティ・インベス
トメントはすでにIDSの株式の27.6%を保有している。
ロイヤルメールは2013年の民営化後も業績低迷が続いている。2023年4月-24年3月
の通期決算は前年の4億1,900万ポンドに続き3億4,800万ポンドの赤字を計上してい
る。
今回の買収提案は7月4日の総選挙を前に政治的に敏感な時期に行われた。世論調査
では労働党が勝利し、05年以来の政権交代になるとの予想が多かった。労働党はす
でに今回の取引に関心を示しており、ロイヤルメールに不利とならないよう必要な
措置を講じると明言している。
クレチンスキー氏は欧州のエネルギー企業やメディア、小売大手などを傘下に持
ち、資産総額は77億ドルと推定される。英国では20年5月にロイヤルメールの株式
の5.9%を買収したほか、サッカー・プレミアリーグのウェストハム・ユナイテッ
ドFCの株式の27%を所有する。