余白一滴

大規模な自然災害は選挙戦を大きく左右する。ドイツの政治家はこの現実を良く知っている。約20年前に実例があるからだ。

2002年の連邦議会選挙である。当時与党であった社会民主党(SPD)と緑の党は劣勢であり、野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が政権を奪取するのはほぼ確実とみられていた。だが、SPDのシュレーダー首相は2つの出来事を巧みに利用して支持率を高め、僅差ながら選挙に勝利した。

ひとつは米ブッシュ政権が主導したイラク戦争への参戦拒否。もうひとつは8月に起きたエルベ川の氾濫である。洪水被害対策は頼もしく、有権者の心をつかんだ。

独西部に甚大な被害をもたらした今回の洪水は9月の連邦議会選挙の大きな要因となる。各党はこの現実を踏まえ、迅速に反応した。

SPDの首相候補であるショルツ連邦財務相(副首相)は休暇を打ち切って被災地を訪問。緊急支援を確約した。対応策を打ち出してポイントを稼げる与党の政治家は有利である。

同じことは主要な被災地のひとつであるノルトライン・ヴェストファーレン州の首相であるCDU/CSUのラシェット首相候補にも当てはまる。事実、被害が発生した当初は州首相として適切な対応を見せていた。野党であることから洪水対策で成果を示せない緑の党のベアボック首相候補に一段と差を付ける好機をうまく利用していた。

だが、シュタインマイヤー大統領とともに被災地のエルフトシュタットを訪問した際に墓穴を掘ってしまった。これまで築き上げてきたすべてを一瞬にして失った現地の市民に寄り添う演説を真顔で行う大統領の背後で、付き人と馬鹿笑いしている姿がテレビで生中継されてしまったのである。ネット上で大きな批判の声が上がったことから、すぐに謝罪しものの、離反した有権者をすべて取り戻すことはできないだろう。

上部へスクロール