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2010/6/23

総合 - ドイツ経済ニュース

国外機関の産業スパイ活動に内相が警鐘

この記事の要約

ドイツの治安白書『2009年度憲法擁護報告』が21日発表された。記者会見に臨んだトーマス・デメジエール連邦内相はイスラムテロなど他のテーマを差し置いてまず、国外の情報機関によるスパイ活動の問題を指摘。特に産業スパイがドイ […]

ドイツの治安白書『2009年度憲法擁護報告』が21日発表された。記者会見に臨んだトーマス・デメジエール連邦内相はイスラムテロなど他のテーマを差し置いてまず、国外の情報機関によるスパイ活動の問題を指摘。特に産業スパイがドイツ経済にもたらす被害の大きさを踏まえ、同分野の対策が今後、重要性を増すとの認識を示した。スパイ活動を最も積極的に展開しているのはこれまで同様、中国とロシアで、白書では経済界に注意を促している。ただ、被害を受けた企業はその事実を隠す傾向にあり、実態をつかんで有効な対策を立てたい治安当局は苛立ちを募らせている。

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白書には2009年9月に起きた産業スパイの実例が挙げられている。それによると、ドイツ南部にある企業の工場を見学した中国提携先企業の関係者が特殊な小型カメラで隠し撮りを行っていたことがその場で発覚。このスパイは警察に逮捕され、最終的に損害賠償金8万ユーロを支払ったほか、保護観察18カ月の有罪判決も言い渡された。

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こうした事件がドイツでどの程度、起きているのかは分からない。被害を受けた企業が通報しないケースが多いためで、白書には件数が記されていない。推定被害総額についても200億~500億ユーロと幅を広く取らざるを得ない状況だ。

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スパイ活動の拠点となるのは大使館や領事館で、外交官の身分で着任した情報機関の職員が諜報収集に当たっている。連邦憲法擁護庁によると、中国の外交官の3人に1人は産業スパイ活動を行っているという。ジャーナリストの肩書を持つ者も多い。

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諜報活動では新聞や一般に公開された情報などを収集・分析する合法的なオープン・ソース・インテリジェンス(オシント)と、違法行為も含む人間による情報収集(ヒューミント)を活用する。ヒューミントの場合は例えば、企業や研究機関の関係者をレストランに招待するなどして親しい関係を作り、何気ない会話を通して機密を聞き出すといった手段が取られる。中国に関してはドイツで生活する自国の客員教授や研修生、学生などの一般人を活用するケースも多い。ドイツで仕事をしたり大学に通う特権を与える見返りとしてスパイ活動をさせるという。白書は「ドイツには中国人が8万人住んでいる」と明記、スパイ活動をする者が少なくないことを示唆している。

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情報・通信技術を駆使したスパイ活動も活発で、ドイツでは2005年以降、企業や官庁、研究機関から情報が盗みとられるケースが増えている。電子メールの添付ファイルを介してトロイの木馬などに感染させ、情報を盗み取るほか、企業などに採用されたスパイがUSBメモリーに機密をコピーするといった手段が取られる。インターネットを利用した情報の盗み取りを行うのは中国が圧倒的に多く、ドイツの官庁を対象とした中国起点のサイバー攻撃は昨年だけで数百件に達したという。

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白書によると、中国のスパイは特に新製品や製造技術、研究成果、企業戦略に関する情報を狙っている。一方、ロシアはエネルギー市場や再生可能エネルギー、バイオテクノロジー、航空宇宙関連の情報収集に力を入れている。

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北朝鮮もドイツで諜報活動を行っている。重点分野は医療関係。金正日総書記の健康問題と関係があるようだ。

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企業は取引先の信用喪失を懸念

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産業スパイの標的となったドイツの企業が当局に協力したがらないことにはいくつかの理由がある。まず第1に情報を盗まれた事実が外部に漏れると、取引先の信用を失うということが挙げられる。あるハイテク企業の経営者は『ハンデルスブラット』紙に対し、高度な電子技術を用いた自動車安全装置をメルセデスやBMWに納入する企業で製品機密の漏えいが起きたことが取引先に知られると、契約を破棄されると事情を説明した。

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当局のスパイ捜査の結果、脱税などの違法行為を行ってきたことが発覚するのを恐れる心理も機密漏えいの隠ぺいにつながっている。

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ただ、中国やロシアは産業スパイ活動を経済戦略に明確に組み込んでおり、民間企業が個々に対処していたのでは効果が限られる。内相や当局の呼びかけに経済界が足並みをそろえて応えられるかが注目されている。デメジエール内相は今後、経済界の要人に働きかけていく意向だ。

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