原子力政策の今後をめぐる駆け引きがドイツの政財界で活発に行われている。焦点となっているのは2点で、1つは原子力発電所の稼働期間を現行法の規定よりもどの程度延長するかという問題、もう1つは原発事業者に対する課税その他の負担をめぐる問題。連邦政府がこれらの政策方針を9月に決定することが背景にあり、マスコミでは連日、大きく取り上げられている。
\ドイツでは2000年、中道左派の社会民主党(SPD)と緑の党からなるシュレーダー政権が原子力発電の廃止政策を導入し、各原発の稼働期間を原則32年とすることが決まった。現行法では2022年までに国内の原発がすべて廃炉となる見通しだ(下の表を参照)。
\一方、09年に成立したキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と自由民主党(FDP)からなる中道右派の現政権はこの政策を見直し稼働期間を延長することで合意している。
\ただ、政権内には稼働期間をどの程度延長するかをめぐり意見の対立があり、今年の冬から春にかけて大きな論争が起きた。衝突したのはレットゲン環境相(CDU)とブリューデルレ経済相(FDP)。環境相が延長期間を最大8年と主張したのに対し、経済相は稼働期間を可能な限り長くすべきだと反論し、議論は平行線をたどった。このため官房長官が間に入り、稼働延長期間の長さによって得られる効果がどう違ってくるかの調査を外部機関に委託し、その報告書をベースに政府方針を決定することで合意が成立した。
\その報告書が8月27日、政府に提出され、30日に公開された。
\報告書は延長期間を4年、12年、20年、28年の4つのケースに分けてそれぞれの経済、省エネ、二酸化炭素(CO2)排出削減、雇用効果などを分析。総合的にみて12~20年が最も高い効果が得られるとの結論を出している。
\メルケル首相(CDU)はこれを踏まえ、「稼働延長期間は10~15年が最も理性的だ」との見解を示した。FDPのヴェスターヴェレ党首(外相兼副首相)も同様の発言をしており、調整はこの線で進みそうだ。政府は9月28日の閣議で最終決定を下す。
\ \財界は政府に圧力
\ \原発事業者に対し政府が課す予定の負担は(1)核燃料税(2)再生可能エネルギーの利用拡大に向けた何らかの貢献の2つ。(1)は財政再建の財源の1つで、今年6月に打ち出された。年23億ユーロを予定している。一方、(2)は稼働期間の延長に伴い原発事業者が得る余剰利益の一部を再可エネの利用拡大に充てるというもので、昨年秋の政権協定で導入が取り決められた。
\これに対しエーオンやRWEなどの電力大手は、負担が重すぎると一部原発の稼働停止に追い込まれエネルギーの安定供給に支障が出かねないとなどと批判した。また、BASF(化学)やティッセンクルップ(鉄鋼)の社長など財界要人と共同で21日付の主要紙に全面広告を展開。過度な負担はドイツの産業競争力を低下させるなどと主張し、政府に圧力をかけた。
\メルケル首相は当初、沈黙を守っていたものの、財界の圧力に政府が屈するとの報道が多数、流れたため、政府の基本方針に変更はないと明言するとともに、不快感も表明した。
\ただ、電力会社の収益を悪化させることは回避する考えで、再可エネの利用拡大に向けた何らかの貢献については、特別税を課すのでなく風力発電などへの投資を義務づける方向で検討しているようだ。投資であるため電力会社はリターンを得ることができる。
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