主にフラットパネルディスプレー用の透明導電膜として使用される酸化インジウムスズ(ITO)を自動車のフロントガラスに応用する技術を、フラウンホーファー被膜・表面技術研究所(IST)の研究チームが開発した。ITOの電導性を利用しガラスを直接温めることで凍結防止を少ないエネルギーで実現するほか、ガラス外側の断熱性が高くなるようコーティングすることで熱を逃げにくくし結露も防ぐという。
\寒い冬の朝、自動車のフロントガラスに凍りついた霜はドライバーの憂鬱の種となる。スクレーパーで掻き落とすのに時間がかかるうえ、掻き残しは視界を妨げるためだ。スクレーパーとガラスの間に泥や砂が入るとガラスに傷がつきかねないという問題もある。暖機運転させて霜を溶かすことも可能だが、これは燃料の余分な消費につながる。
\ISTの研究チームはこうした事情を踏まえ、根本的な解決として「ガラス表面の結露・凍結を防ぐ(曇り止め)」という視点から技術開発に取り組んだ。チームがまず注目したのは酸化スズ(SnO2)だ。SnO2に曇り止め効果があることは100年ほど前から知られており、現在でも冷凍ショーケースなどの曇り止めに用いられている。
\ただ、SnO2は熱に弱く、製膜したガラス基板を高温で変形させると膜にひびが入るため、曲線的で複雑な形状の自動車ガラスには使いづらい。また、透明度がやや低く、安全性が重視される自動車ガラスには適していない。
\研究チームはこれらの欠点を克服する新たな素材として、酸化インジウム(In2O3)にSnO2を添加したITOに着目した。ITOは導電性と高い透明度(可視光の透過率は約90%)を持ち、液晶パネルや有機ELなどのFPD(フラット・パネル・ディスプレー)向け電極として多用されている。
\ISTのチームが開発した技術は、高出力インパルス・マグネトロン・スパッタリング(HIPIMS)と呼ばれる手法を用いるもので、流れる電流の量を通常の100倍に引き上げることで材料をイオン化するのが特徴。材料をイオン化することで、薄膜特性の制御が行いやすくなるメリットがあるという。
\現在は試作段階にあり、フロントガラスの凍結問題が解決されることは当面ない。ISTはデュッセルドルフで今月28日から開催されるガラス製品見本市「Glastec」で試作品を展示する。
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