欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2010/9/15

ゲシェフトフューラーの豆知識

雇用主に転勤命令権あり

この記事の要約

サラリーマン生活に転勤は付きものという考えは、日本であれば常識に属するだろう。だが、ドイツでは事情がかなり異なる。家族を中心とする交友関係が地域社会に張りめぐらされているため、転勤命令を喜んで受ける人は少ないのだ。\ こ […]

サラリーマン生活に転勤は付きものという考えは、日本であれば常識に属するだろう。だが、ドイツでは事情がかなり異なる。家族を中心とする交友関係が地域社会に張りめぐらされているため、転勤命令を喜んで受ける人は少ないのだ。

\

こうした事情を知っていると、現地社員への転勤命令はできるだけ出さないほうが無難という判断に傾くかもしれない。自己主張が強いドイツ人の部下とのトラブルは面倒なためだ。

\

ところで、転勤をめぐる問題は法的な観点からみるとどうなのだろうか。今回は最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が4月に下した判決(9 AZR 36/09)を紹介しながらこのテーマを取り上げてみたい。

\

判決文によると、裁判を起こしたのは国際的な会計事務所P(おそらくプライスウォーターハウスクーパース)のビーレフェルト支店に勤務していた1965年生まれの女性会計士。同会計士は2007年10月にミュンヘン支店への転勤を打診され、11月1日に12月1日付の異動命令が出されたが、受け入れを拒否し実際にミュンヘン支店に出社しなかったため、12月7日付で即時解雇。これを不服として転勤命令と解雇の無効を主張し提訴した。

\

被告のP社が転勤を命じたのは◇ビーレフェルト支店で原告が行うべき業務がなくなっていた◇ミュンヘン支店では大口顧客の都合で会計士の緊急に補充しなければならなくなった――ためだ。これに対し原告は、ビーレフェルト支店では転勤命令直前の07年9月に原告と同じような業務を行う新社員を採用しており、原告の業務がなくなっていたとする雇用主の主張は根拠がないと反論。またミュンヘンよりもビーレフェルトに近い都市にある支店に空きポストがあったなどと主張し、ミュンヘンへの転勤命令は妥当性を欠くと訴えていた。

\

この係争で連邦労裁は転勤命令は妥当との判断を下した。判決理由で裁判官は、労働契約などに特別な取り決めがない限り雇用主は被用者が勤務する場所や時間、労働内容を詳細に決定できるとした営業令(GewO)106条の規定を指摘した。

\

今回の係争では労働契約に転勤に関する具体的な取り決め(転勤命令の通告から発効までの期間や、これまでの勤務地と新しい勤務地の最大許容距離など)が定められていないのは不当だとの判断が控訴審判決で示された。連邦労裁はこれについては、雇用主は労働契約締結時には予見できなかった新しい現実に対応しなければならないと指摘。転勤に関する詳細な取り決めを労働契約に盛り込むことを義務づけるのは妥当性を欠くとの判断を示した。

\