東西ドイツの統一から20年目を迎えた3日、北ドイツのブレーメンで記念式典が開催された。今年は節目の年ということもあり、統一の立役者であるコール元首相などが出席。大きな関心を集めた。ただ10年前の式典に比べると、マスコミの取り扱いは明らかに小さく、東西ドイツの統合が緩やかながら進んでいることがうかがわれる。クリスティアン・ヴルフ大統領は式典の演説のなかで、イスラム市民に対する偏見を戒め文化的背景の異なる者を受け入れるようドイツ人に要求しており、国家社会統合の主要課題が移民問題に移りつつあることを印象づけた。
\統一からこれまでに東西ドイツの格差は縮まったのだろうか。その答えはイエスともノーとも言えるというのが本当のところだ。
\東ドイツ地域の住民1人当たりの国内総生産(GDP)をみると、統一直後の1991年は西ドイツ地域の33.9%にとどまっていたが、08年には同70.0%にまで上昇している(グラフ1を参照)。ここから判断すると統合は順調に進んでいるようにみえる。
\だが、その間の数値の推移に目をやると、95年に61.5%へと急上昇した後は上げ幅が著しく鈍っていることが分かる。労働生産性の比較統計(グラフ2を参照)も同じように推移している。
\統一から数年間、東ドイツ地域の経済を急速に押し上げたのは西ドイツ資本によるインフラ・不動産投資である。一方、旧東独時代の国営企業はこの間に多くが破たん。それに代わるだけの産業は現在に至っても育っていない。
\このため不動産バブルがはじけた90年代半ばからおよそ10年間、失業率はおよそ17~20%の水準で高止まりした。仕事がないため西ドイツ地域に流出する市民は後を絶たず、東ドイツ地域の人口は統一後の最初の10年間で130万人、その後の10年間でもさらに80万人縮小した。同地域に残っているのは高齢者や就労チャンスの少ない社会的弱者が多く、そうした人々は西ドイツ地域からのトランスファー(移転)に依存して生活している。統一後20年間の移転総額は1兆3,000億ユーロと大きく、ドイツ経済の成長を長年にわたって押し下げてきた。
\ただ、こうした問題にもかかわらず、東西間の格差が狭まっているのも事実で、2020年には東ドイツ地域経済が西ドイツ地域の経済後進地域の水準まで上昇すると予想するエコノミストもいる。
\意識の面でも東西の壁は着実に低くなっている。第2公共放送ZDFの定期世論調査によると、「東西ドイツ間には相違点よりも共通点が多い」との回答は今年43%となり、1995年の26%から大きく増加した。「東ドイツ市民と西ドイツ市民は統一後、距離が大幅に狭まった」も2000年の40%から51%へと上昇している。
\これに代わって社会統合の主要テーマになっているのが移民問題だ。連邦銀行(中央銀行)理事を9月末で退任したザラツィン氏のイスラム教徒に対する差別的な発言もあり、社会を分断する新たな壁としてにわかに関心が高まっている。ヴルフ大統領はこれを踏まえ、キリスト教とユダヤ教が「ドイツに属するのは自明なことだ」と述べたうえで、「イスラム教もまたドイツの一部になった」と強調。ドイツ系市民に対し排外主義に陥らないよう注意を促した。
\