欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2010/12/15

総合 - ドイツ経済ニュース

共同債券構想をドイツなどが批判、ユーロの先行き懸念は消えず

この記事の要約

ユーロ危機からの脱却に向けてユーロ圏16カ国財務相会合(ユーログループ)の議長を務めるルクセンブルクのユンケル首相が打ち出した「ユーロ共同債券構想」が波紋を呼んでいる。同構想が実現すると財政安定国で国債利回りが上昇すると […]

ユーロ危機からの脱却に向けてユーロ圏16カ国財務相会合(ユーログループ)の議長を務めるルクセンブルクのユンケル首相が打ち出した「ユーロ共同債券構想」が波紋を呼んでいる。同構想が実現すると財政安定国で国債利回りが上昇するという副作用が発生するためで、同利回りが低いドイツは強く批判した。ただ、EUは「ユーロ防衛基金」を創設し財政破綻の危機に直面するアイルランドへの緊急融資もまとめあげたものの、ポルトガルなど他の財政悪化国でソブリンリスクが再燃する懸念がくすぶり続けているのも事実で、新たな危機対応策の制定が必要との意見は根強い。財政悪化国の国債を買い支える欧州中央銀行(ECB)がここにきて資本増強の検討を余儀なくされていることもあり、政策当事者は何らかの対応を迫られそうだ。

\

EUは6月、ギリシャ危機の教訓を踏まえ、総額7,500億ユーロのユーロ防衛基金を創設した。EUが5,000億ユーロ、国際通貨基金(IMF)が2,500億ユーロを負担するというもので、EU拠出分はユーロ圏各国の政府保証による総額4,400億ユーロ規模の「欧州金融安定基金(EFSF)」が大半を占める。

\

アイルランドはユーロ防衛基金の支援を受ける最初の国で、EU加盟国は7日、同国に対する総額850億ユーロの融資を正式決定した。ECBが同国やポルトガル、スペインなど財政悪化国の国債を買い取っていることもあり、これらの国の国債利回り(リスクプレミアム)は最近、比較的安定している。

\

ただ、ユーロ危機がこのまま回復に向かうと考える市場参加者は少なく、新たな危機対応策の策定を求める声は政策当事者の間でも根強い。

\

ルクセンブルクのユンケル首相はそうした政治家の1人だ。同首相が提唱したユーロ共同債権構想はユーロ加盟国が発行する国債を全加盟国が共同で保証するというもので、加盟国間の国債利回り格差は解消。財政悪化国は国債利回りが大幅に低下するため、国債を借り換えやすくなり、財政破綻のリスクは遠のく。

\

この構想に対しドイツ、フランス、オランダ、フィンランドなど財政が安定した国は強く反対している。これまでに比べ自国の国債の利回りが大幅に上昇するためで、10年物のドイツ国債は現在の1.73%からほぼ2倍の3.31%へと上昇。政府は国の資金調達コストが最低でも年170億ユーロ膨らむと試算している。

\

その負担は最終的に納税者が引き受けることになるため、政府としては受け入れられないというのが本音だ。ドイツはすでにギリシャ支援やユーロ防衛基金で加盟国のなかで最大の援助を行っており、支援拡大は国民の理解を得にくい。

\

だが、政府が同構想に反対する理由はそれだけではない。財政悪化国が低金利で市場資金を調達できるようになると、これらの国が財政再建努力を放棄しかねない恐れがあるのだ。ドイツのショイブレ財務相は13日、こうした傾向が出てくるとユーロの不安定化が長期的に助長されるとの見方を示した。

\

Ifo経済研究所のジン所長は『ハンデルスブラット』紙のインタビューで、同構想が実現すると、財政健全国から悪化国への資金移転(トランスファー)が恒常化すると指摘。財政悪化国は経済力を向上させるというインセンティブを失い、経常赤字体質から抜け出せなくなるとの見解を示した。

\

ユーロ危機の拡大防止に向けてはユーロ防衛基金の増額を求める声もある。ドイツはこれに対しても、同基金は資金にゆとりがあり、規模の拡大は不要だとして反対。これを受け、6日のユーロ圏財務相会議は増額不要との結論をまとめた。

\

\

国債購入でECBの資産劣化

\

\

ECBは10日までの1週間にユーロ圏で総額26億6,700万ユーロの国債を購入。買い取り額は前週の19億6,500万ユーロを上回り、1週間の購入額としては7月以来の高水準に達した。

\

購入し銘柄は明らかにしていないが、アイルランドとポルトガルの国債が中心とみられる。これらの国債は時価が急落する恐れがあるため、ECBは16日の政策理事会で増資の検討を行うもようだ。

\

ロイター通信によると、ECBが加盟国の中央銀行に増資を求めた場合、ドイツ政府は協力する考えという。

\