年末などに任意の手当を3年連続無条件で支給すると、従業員や企業OBには4年目以降、手当受給の既得権が発生することは以前、このコラムで紹介した(2010年2月24日号)。既得権化を防ぐにはその意思を明確な表現で支給対象者に伝えておく必要がある。方法としては◇労働契約に明記する◇支給するたびにその旨を文書で伝える――といったことが考えられる。
\ただ、そうした意思を一義的に文章で表現するのは案外、難しく、うっかりすると多義的な文章になってしまうことがある。この場合、文章は無効となるため、手当を3年以上支給し続けた雇用主はその後も支払い続けなければならなくなるから細心の注意が必要だ。今回はこの問題に関して最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が8日に下した判決(訴訟番号:10 AZR 671/09)をお伝えする。
\裁判を起こしたのは被告企業Aに1996年から勤務する技術者。A社では2002~07年の6年間、任意のクリスマス手当が支給されていたが、08年は経済危機で経営が苦しくなったため支給を見合わせた。これを不当として支給の継続を要求した原告に対し、雇用主は労働契約に盛り込まれた任意手当に関する条項を根拠に支払いを拒否したため、裁判となった。
\この条項の文面は「法律ないし労使協定に定めのない報奨金、特別手当、休暇手当、手当、クリスマス手当を雇用主が支給する限りにおいて、これらは任意かついかなる法的義務もなく行われる。それゆえに、特別な予告期間を設けることなくいつでも取り消すことができる」というもの。
\裁判は第1審で原告勝訴、第2審で敗訴となったが、最終審の連邦労裁は原告の逆転勝訴を言い渡した。判決理由で裁判官は、被告のA社が手当支払いを拒否する根拠として挙げた労働契約の条項について、「雇用主は手当の支給を自発的に自らの義務としたいという風にも解釈できる」として文面が一義的でないことを指摘。こうした条項は民法(BGB)307条が無効とする「定義が不明確で理解不能な規定」に当たるとして、2008年分の手当支払いを会社側に命じた。
\裁判官はまた、任意の手当てを「特別な予告期間を設けることなくいつでも取り消すことができる」とした文面についても「『取り消すことができる』ということはすでに既得権が発生していることを前提にしている」と述べ、これについても表現に問題があるとの認識を示した。
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