リーマンショックの発生から1年3カ月が経った現在、ドイツ経済は金融・経済危機から力強く立ち直っている。外需の好転から始まった景気の回復は内需へと広がり厚みを増しており、ドイツ商工会議所連合会(DIHK)のヴァンスレーベン専務理事は先ごろ、「ドイツ経済は欧州の問題児から模範生へと生まれ変わった」の見方を示した。景気改善と歩調を合わせるように、経済危機で倒産した企業はその多くが再生に向けて新たな一歩を踏み出している。
\昨年は企業倒産件数が11%増加し、3年ぶりに増加へと転じた。大型倒産が極端に多かったのも特徴で、アルカンドール(流通・旅行)、キマンダ(半導体)、カルマン(自動車部品)、エスカーダ(婦人服)など世界的に有名な企業が次々と経営破たんに追い込まれた(表を参照)。
\キマンダは救済の手を差し伸べる投資家が現れず、現在、清算手続きが行われている。同社のホームページを見ると、特許から事務用品までのあらゆる資産が売りに出されており、痛々しい印象を受ける。従業員のほとんどは失業へと追い込まれた。アルカンドールの通販子会社クエレもすでに清算された。
\こうした不幸なケースがある一方で、最近は危機の淵からはい上がりつつある企業の姿も目に付くようになってきた。
\ \市場の変化に対応
\ \アルカンドールのデパート部門カールシュタットはそうした例の1つだ。2010年9月通期決算では営業利益(EBITDA)9,300万ユーロを計上。同社関係者が『南ドイツ新聞』に語ったところによると、クリスマス商戦の業績はライバルのカウフホーフを大きく上回っているという。
\カールシュタット倒産の原因は独小売市場の構造転換に対応できなかったことだ。具体的には◇格安店の台頭◇大手専門チェーンの成長――を受け、幅広い分野の商品を一手に提供するという百貨店の伝統的な事業モデルが失効。価格面では格安店に、魅力ある商品の提供という点では家電や衣類の量販店に太刀打ちできなくなった。
\倒産後は不採算店の閉鎖などコスト削減に取り組んだ。同社を10月に買収した投資家のニコラス・ベルグラン氏は今後、各店舗の地域性を重視した事業を展開するほか、衣料品を中心に若者向けの品ぞろえを強化。顧客ターゲットを明確に絞り込み、各店舗の個性を引き出していく。店舗の内装も2014年末までにすべて刷新する意向だ。
\従業員のモチベーション向上も再建の大きなカギとみており、売り上げに直接つながった店員の接客サービスは月500ユーロを上限に給与に反映させる報酬モデルを導入する。専門チェーンの店員が積極的に顧客に声をかけるのに対し、デパートの店員はほとんど働きかけないという事情が背景にある。
\高級下着メーカーのシーサーも元気を取り戻しつつある。すでに黒字転換を果たし、来年第2四半期には株式公開(IPO)を実施する予定だ。
\同社は1875年設立の老舗メーカーで、品質の高さには以前から定評があった。ただ、ブランドイメージ低下のほか、他社ブランドのライセンス生産事業が足かせとなり経営破たんした。倒産後はライセンス事業からほぼ全面的に撤退したほか、従業員数も削減している。
\シーサーの再建ではドイツを代表するデザイナーのヴォルフガング・ヨープ氏がデザインやマーケティングを全面的に支援しており、これも大きな浮上力となっている。
\高級婦人服のエスカーダはインドの富豪メグハ・ミタル氏に買収されたことで息を吹き返した。高級ブランドのイメージを損ねずにこれまでよりも価格帯の低い製品を提供する戦略や、ホームテキスタイル事業への参入など、ブランド力を生かしながら新しい方向性を打ち出している。時代のニーズに合わない「ぜいたくできらびやかな服」というブランドイメージからは決別する意向だ。
\経済危機では投資会社傘下の自動車部品メーカーが数多く倒産した。投資会社に買収された際に買収コストを転嫁されたことで財務が悪化。世界的な景気悪化に伴い受注が激減したため、資金繰りに行き詰った格好だ。これらの企業はもともの競争力が高いため、その多くはすでに他社に売却された。
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