ドイツは社用車大国である。乗用車を個人で所有するよりも会社から貸与された方が税制面で有利なため、多くの人が事実上のマイカーとして利用しているのだ。新車登録に占める社用車・公用車の割合は5割を超える。社用車需要がなければ、メルセデスやBMWといった高級車の販売台数は激減するはずである。
\社用車は言うまでもなく会社の所有物である。だがその一方で、貸し与えられた社員は独占的な利用を認められているため、双方の権利は錯綜している。裏返せば、何か問題が起きた時は会社と社員の係争に発展しやすいということである。
\本コラムでは以前で、6週間以上の長期病休で給与の支払いの止まった社員に対し会社は社用車を貸与し続ける義務があるかどうかをめぐる裁判をお伝えした(2010年8月11日号掲載)。この裁判で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)がこのたび判決を下したので、今回はこれを取り上げる。
\裁判を起こしたのはフォルクスワーゲン(VW)の中型車「パサート」を貸与されていた建設会社勤務の高齢社員で、月284.65ユーロ相当の便宜を受けているとみなされていた。同社員は2008年3月3日~12月15日までのおよそ9カ月半、病気で欠勤。病欠7週目の4月14日以降は給与支給が止まり、加入する民間健保から疾病保険金を受けるようになった。
\同社用車のリース契約が切れることを受け雇用主は11月7日付で同社員に文書を送付し、同13日に車を返還するよう要求した。原告はこれに応じた。
\病休明け2日目の12月17日、同社員は超小型車「スマート」を貸与されたが、閉所恐怖症を理由に拒否。翌18日にフォードのコンパクトカー「フォーカス」を貸し与えられた。
\その際、パサートを返還した11月13日から12月17日までの約1カ月間、社用車を利用できなかったとして、1日当たり9.36ユーロを支給するよう要求した。雇用主がこれを拒否したため裁判を起こした。
\原告は第1、2審でともに敗訴。最終審のBAGも下級審判断を支持する判決(9 AZR 631/09)を言い渡した。判決理由で裁判官は、給与の支給がなければ給与の一部とみなされる社用車の貸与も雇用主の義務ではなくなると指摘。債務者(この場合は雇用主)が債権者(社用車を貸与される社員)への義務を果たせない場合、債権者は損害賠償を請求できるとした民法(BGB)275条、280条、283条の規定は適用されないとの判断を示した。
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