経済危機で遠のいていたインフレ懸念が再び浮上してきた。ユーロ圏の1月の消費者物価指数は前年同月比で2.4%上昇し、2008年10月以来27カ月ぶりの高水準を記録。欧州中央銀行(ECB)が上限目標値とする2%を2カ月連続で上回った。ドイツでも各種物価の上昇基調が続いている。国内景気の急速回復を背景に賃金の上昇圧力も高まっており、エコノミストの間には賃金と物価のスパイラルを予想する声が高まってきた。
\ドイツの消費者物価指数は1月に前年同月比で1.9%(EU基準では2.0%)上昇した。インフレ率は8月の1.0%を底に上昇基調が続いている。
\物価を強く押し上げているのは石油と農産物で、灯油と自動車燃料は昨年それぞれ22.6%、11.2%上昇。野菜と果物の上げ幅も各6.3%、5.2%に達した。
\消費者物価の今後に影響をもたらす輸入物価をみると、昨年12月は前年同月から12.0%上昇し、およそ30年来の大きな上げ幅を記録した。エネルギーと食料品のほか、金属や金属鉱石などの原料が特に高騰している。(グラフを参照)
\これらの商品の価格が上昇するのは◇世界的な景気回復を受け需要が拡大している◇米国やユーロ圏が依然として低金利を継続している――ため。農産物については不作も影響している。
\こうした事情を受けECBはインフレへの警戒感を強めている。ただ、物価の沈静化に向けて利上げを実施する可能性は当面、極めて低い。ギリシャやポルトガルなど財政悪化国の景気が下振れし、ユーロ危機をさらに深刻化させる恐れがあるためだ。市場関係者は少なくとも秋までは金利が据え置かれるとみている。
\ \食品や衣料品に値上げの機運
\ \ドイツについては賃金の上昇も大きな懸念材料だ。
\企業の業績回復を受け、労働組合は5~7%の大幅ベアを要求。経済界は対決姿勢を示しているものの、労働力確保が難しくなっていることもあり押し切られる可能性がある。
\賃金が増え消費が伸びると、メーカーは原料費と人件費の上昇分を製品価格に転嫁する動きを強める。値上げに踏み切っても販売が落ち込む恐れが低いためで、チョコレートバー大手マースの独法人は1月27日、国内価格を数パーセント引き上げる意向を表明。アパレル業界団体German Fashionも31日、2011年冬物衣料からメーカーが3%程度の値上げに踏み切るとの見通しを明らかにした。
\宅配業界でも値上げの機運は高まっており、DPDは第1四半期中に料金を平均4.5%引き上げる。GLSも4月1日付で平均4%程度の値上げを実施する。Hermesはガソリン価格の上昇などを受け値上げを検討中だ。ドイツポストは法人向け料金を引き上げる可能性を示唆している。
\賃金と物価がらせんを描きながら上昇していけば、インフレ率が高まるのは必至で、Ifo経済研究所のカイ・カルステンゼン研究員は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に対し「欧州中銀が金利を比較的低い水準にとどめ、ドイツの景気が予想通りに拡大した場合、石油価格の上昇率が仮に緩やかであっても、インフレ率は2%を大きく上回り、3%を超える可能性も否定できない」との見方を示した。コメルツ銀行のエコノミストは「欧州中銀は今後10年間のインフレ率を(目標とする)平均2%弱に抑えることができない。3~4%というのが現実的な数値だ」と発言、物価の高騰が中長期的に続くとの予想を提示した。
\賃金と物価のスパイラルが始まった場合、ECBは苦渋の選択として利上げに踏み切る公算が高い。ECBのユルゲン・シュタルク理事(主任エコノミスト)は原料など個々の製品の価格が上昇する「一次的な影響」は受け入れられるが、物価が全面的に上昇する「二次的な影響」が出てくれば、ECBとして対処せざるを得ないと述べ、利上げの可能性を強くにじませた。
\