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2011/2/9

総合 - ドイツ経済ニュース

中東危機、長期化すれば企業戦略に影響

この記事の要約

中東・北アフリカ情勢を欧州・ドイツの経済界がかたずを飲んで見守っている。政情不安が長引くと、景気に影響が出るほか、現地プロジェクトや企業戦略の変更も余儀なくされかねないためだ。反政府デモのしわ寄せを受けた企業はすでに当座 […]

中東・北アフリカ情勢を欧州・ドイツの経済界がかたずを飲んで見守っている。政情不安が長引くと、景気に影響が出るほか、現地プロジェクトや企業戦略の変更も余儀なくされかねないためだ。反政府デモのしわ寄せを受けた企業はすでに当座の対策を開始している。

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エジプトの反政府デモを受け、国外企業は現地拠点の営業見合わせや自宅待機、駐在員帰国などの措置を取った。また、欧州旅行最大手のTUI Travelはエジプト、チュニジア向け旅行を他の国に振り替えるサービスや無料キャンセルの受け付けを開始。これに伴い1-3月期に最大3,500万ユーロの損失を計上する。競合FTIはエジプト向け旅行を今月末まで全面的に取り止める。

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一方、現地情勢を慎重に判断しながら、事業を再開させる動きも出てきた。食品大手のネスレはエジプト3工場の操業を6日に再開。重機大手ABBもカイロ事務所の休業を打ち切った。

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中東・北アフリカに進出した企業で特に興味深いのはワイヤーハーネス大手レオニの対応だ。

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同社は金融危機の最中に人件費が高騰した中東欧の工場で6,000人を解雇。モロッコとチュニジアの工場に生産を移管した。両国とエジプトを合わせた3カ国では世界の従業員の44%に当たる2万4,000人を雇用している。内訳はチュニジアが1万2,000人、モロッコが8,000人、エジプトが4,000人。

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チュニジアでいわゆる「ジャスミン革命」が起きた際は、交通機関が麻痺したため従業員が出社できなくなり、生産が大幅にダウンした。同社はこれを受け独自に通勤バスを手配したほか、欧州向け供給を確保するためにモロッコとエジプトで増産体制に入った。生産規模は現在も実需を上回る水準を維持し、稼働率の長期低下リスクに備えている。

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エジプトでは反政府デモが活発化した後も軍の警備の下ほぼ正常に操業を続けている。ただ、カイロの港湾設備が大幅な機能麻痺に陥っているため、欧州向け輸出ルートの確保が難しくなっているという。

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モロッコではこれまでのところ、反政府デモが起きていない。ただ、若者を中心とする高い失業率や国王による権威主義的体制など、チュニジアやエジプトと共通する火種を抱えており、治安が今後、一気に悪化する恐れもある。

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北アフリカの政情不安が長期化した場合、レオニは世界の生産体制見直しを迫られる可能性がある。これは同地での生産を強化してきた欧米日の他の自動車部品メーカーにも当てはまることだ。

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スエズリスクは世界経済に悪影響も

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民主化デモの動きがエジプトに広がったことで、危機は別の次元にも波及した。エジプトは海運の要所であるスエズ運河を管理しているため、石油や原料の先行き懸念が浮上しているのだ。北海ブレント原油は大統領支持派と反体制派が衝突した3日に一時1バレル103ドルを突破し、2年4か月ぶりの高値となった。スエズ運河が仮に閉鎖されれば200ドルに達するとの見方もある。

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エネルギーと原料の価格が大幅に上がると、世界の工場である中国などの新興国で物価と金利が特に大きく上昇し、購買力と経済成長が鈍る。その影響は輸出や現地進出を通して新興国への依存度を高めるドイツなどの先進国にも及ぶ。

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「デザーテック計画を近代化の呼び水に」

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民主化のうねりが現在押し寄せている中東・北アフリカの国々は、失業率が高いほか、貧富の差が激しいなどの共通点を持つ。このため問題の抜本的な解決には経済を活性化させて雇用を創出することが欠かせない。

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世界最大の産油国サウジアラビアはオイルマネーで獲得した潤沢な資金を以前からインフラ整備や教育に投入。産業構造を多様化・近代化し、雇用を創出する戦略を推し進めている。同国に政情不安が波及する可能性は低いとみられるものの、失業率は10%超と高く、当局は警戒感を強めている。

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一方、政情不安に直面する国々はサウジアラビアやアラブ首長国連邦と異なり資源が少ない。このため、巨額の資金を近代化に投じることはできず、雇用創出にはサウジアラビアと違ったアプローチが求められる。

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こうした問題意識を背景に、北アフリカに太陽光発電や風力発電パークを設置し、電力を現地と欧州に供給する「デザーテック」計画がにわかに脚光を浴びている。

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同計画は欧州の電力確保のほか、中東・北アフリカ諸国の経済成長に寄与することも目的に据える。具体的には◇電力を安定供給できる体制を整えて現地の工業化と雇用を促進◇欧州からの技術移転――などの効果を狙っている。プロジェクト推進団体DIIの関係者は『ファイナンシャル・タイムズ(ドイツ版、FTD)』に対し、一連の政情不安によりデザーテック計画の意義が改めて確かめられたとの認識を示した。

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