労働契約違反の疑いのある社員を探偵を雇って内偵し、違反の事実が確認された場合、雇用主はその費用を問題の社員に負担させることができる。社員の違反行為が内偵コストを発生させた原因だからである。だが、この原則に基づいて社員に内偵費を負担させることは容易でない。今回はこの問題を最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が昨年10月に下した判決(訴訟番号:8 AZR 547/09)に即してお伝えする。
\裁判を起こしたのは人材派遣会社の元ミュンヘン支店長で、2004年1月末で退社する予定だった。このため、1月初旬には支店にあった私物をすべて持ち帰っていた(判決文に記載はないが、未消化の有給休暇を1月に消化したものとみられる)。
\同支店長は1月第2週に被告企業の顧客A社を訪問した。この事実を知った被告企業は14日、探偵会社Hに調査を依頼。H社は19日に原告の妻への電話で原告が1年前から人材仲介業をひそかに営んでいたことを突き止めた。
\原告が労働契約に違反して雇用主の利害を損なう活動を行っていた(同じ人材派遣業を営んでいた)ことが確認されたため、被告企業は原告に対して内偵費4万300ユーロの負担を要求。原告はこれを不当として提訴した。
\下級審では原告が勝訴。最終審の連邦労裁も同様の判断を示した。判決理由で裁判官は、内偵費用の負担を社員に要求できるのは、内偵を依頼した時点で労働契約違反の「具体的な疑い」がある場合に限られると指摘。原告がA社を訪問したことは疑いを推測させるものの、それだけでは具体的な疑いの要件を満たさないとの判断を示した。
\ \■■ ポイント ■■
\内偵調査で疑いが裏付けられたものの、探偵に調査を依頼した時点では具体的な疑いがなかったため、原告には内偵費用を負担する義務が発生ない。
\