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2011/3/9

ゲシェフトフューラーの豆知識

宗教上の理由で業務拒否、解雇できないケースも

この記事の要約

被用者が労使契約に定められた業務を拒否した場合、雇用主は解雇できる。宗教上の理由による場合でもこの原則は変わらないが、解雇のハードルは高くなる。憲法で保障された信仰・良心の自由に関わるからである。ここでは最高裁の連邦労働 […]

被用者が労使契約に定められた業務を拒否した場合、雇用主は解雇できる。宗教上の理由による場合でもこの原則は変わらないが、解雇のハードルは高くなる。憲法で保障された信仰・良心の自由に関わるからである。ここでは最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が2月24日に下した判決(訴訟番号:2 AZR 636/09)に即してこの問題をお伝えする。

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裁判を起こしたのはキール市にある生協に1994年から勤務するトルコ出身のイスラム教徒。採用当初は洗車業務につき、2003年に飲料販売部署に異動した。その後、乳製品を取り扱う部署に移されたものの、冷蔵庫の冷気が原因でたびたび体調を崩したため、再び飲料販売部へと戻された。

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原告はこのとき、アルコール飲料を運搬したり売り場に並べたりすることはコーランの教えに反するとして当該業務を拒否したため、08年3月に即時解雇された。これを受け解雇は信仰の自由の侵害に当たるとして裁判を起こした。

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雇用主は、◇原告は飲料販売部に最初に配属された際、アルコール飲料の取り扱いを行っていた◇コーランが禁じるのは飲酒のみで、アルコールを取り扱うこと自体は禁止されていない――と主張。これに対し原告は◇当初の配属時にはアルコール飲料の取り扱いを免除されていた◇以前に比べて信仰心が強くなった――などと反論し、真向から対立していた。

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下級審は被告生協の主張をおおむね認める判決を下した。唯一、不適切としたのは処分の重さで、即時解雇を解雇予告期間を設けた通常解雇に改めるよう命じた。

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一方、連邦労裁は、信仰の自由・良心の自由を根拠に業務拒否した従業員を解雇できるのは、そうした従業員が内面的な葛藤なしに勤務できる部署が社内にない場合に限られるとの判断を示した。被告生協には洗車など原告が働ける部署があるため、解雇を事実上無効とした格好だ。

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ただ、同裁の裁判官は、下級審ではどのような業務が宗教上の信念に抵触するのかが十分に解明されていないと指摘。この問題が解明されなければ、原告の異動先が社内にあるかどうかを判断できないとして、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州労働裁判所に裁判を差し戻した。

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