福島原発の放射能漏れ事故はドイツにも大きな衝撃をもたらしている。与党3党は14日、昨秋の法改正で実現した原発の稼働延長を3カ月間、凍結することで合意した。凍結期間中は国内の全原発(17基)の安全性を徹底検証。ビブリスAなどの老朽化した原発7基については少なくとも6月中旬まで稼働を停止して検証を行う。市民の間には原発反対の声が急速に高まっており、緊急世論調査では原発を可能な限り早く全面廃止するよう求める回答が過半数に達した。
\メルケル首相は与党合意後の記者会見で、「(福島原発の事故により)科学的な基準からみてあり得ないと思われてきた事態が実際に起こり得ることが分かった」と指摘。「これにより状況は変わった」と述べ、国内原発を徹底的に検査する意向を明らかにした。「疑わしい場合は安全性を優先する」としており、比較的新しい原発でも廃炉となる可能性がある。
\旧式の原発については建設から時間が経ち老朽化しているほか、設計的に福島原発との類似性が指摘されていた。このため野党・社会民主党(SPD)はこれらの施設を速やかに廃止することを福島原発事故直後から強く要求。政府・与党はこれに押される形で7原発の一時停止を打ち出した。
\対象となるのは1980年末までに操業を開始した施設で、ビブリスA、ビブリスB(以上ヘッセン州)、ネッカーヴェストハイムⅠ、フィリップスブルクⅠ(以上バーデン・ヴュルテンベルク州)、ブルンスビュッテル(シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州)、イザールⅠ(バイエルン州)、ウンターヴェーザー(ニーダーザクセン州)が該当する。このうちネッカーヴェストハイム原発についてはシュテファン・マップス州首相が廃炉とする考えを表明した。ノルベルト・レットゲン環境相(CDU)によると、7原発が再稼働することはないという。
\ブリューデルレ経済相は7原発の稼働停止により電力供給に支障が出ることはないとしている。ただ、電力料金が上昇する可能性を否定していない。
\政府与党が原発稼働延長を緊急凍結したのは、目前に州議会選挙が迫っているほか、原発の信頼性が低下したと判断したためだ。レットゲン環境相は「原発は時代遅れの発電モデルだ」と断言。政府は原子力エネルギーから再生可能エネルギーへの移行政策を加速させる考えを打ち出した。
\こうした動きは欧州連合(EU)レベルでも強まっており、欧州委員会のギュンター・エッティンガー委員(エネルギー政策担当)は15日、独第1公共放送ARDに対し「近い将来欧州が原発なしに電力を確保できるかどうか」を検討する必要があると語った。EU加盟国では今後、原発の安全性調査(ストレステスト)を実施する。
\これに対し経済界は懸念を強めている。電力料金が上昇しドイツの産業立地条件が悪化する恐れがあるためで、独産業連盟(BDI)のハンスペーター・カイテル会長は「感情的になって早急な結論を出さないよう」強く要請した。
\ \原発廃止支持が71%に急増
\ \福島の事故を受け14日には全国各地で原発廃止を求めるデモが行われた。月曜日であったにもかかわらず、参加者は計11万人を超えており、反原発の機運は急速に高まっている。
\世論調査機関のInfratest-dimapがARDの委託で実施した緊急アンケート調査によると、原発の速やかな廃止を求める回答は53%に達した。「日本のような原発事故がドイツでも起こり得る」は70%に上っており、深刻な放射能漏れ事故を他人事と考える市民は少ない。原発廃止政策の支持者は昨年9月の62%から71%へと増加し、反対者は同32%から24%へと減少した。
\一方、ドイツのメディアでは原発事故にもかかわらず日本の市民が落ち着いて生活していることが大きく取り上げられている。欧米の市民であれば仕事を放り出してでも避難するのが普通と考えられているためだ。
\これについて日本通のドイツ人は14日ARDの討論番組で、日本の報道機関が視聴者や読者に危機的な状況や可能性を十分に伝えてないことが一因だと指摘。放射性降下物飛来の可能性を早い時期から大々的に報道してきた欧米メディアの視聴者(主に外国人)は首都圏から西日本や国外に続々と脱出していると語った。
\ドイツのテレビ番組では福島原発の事故直後から、日本周辺の風向きに関する情報が繰り返し報道され、放射性降下物が数日以内に首都圏に到来するとの予報が伝えられていた。
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