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2011/4/20

総合 - ドイツ経済ニュース

脱原発加速、6月中旬にも法案可決へ

この記事の要約

福島第1原発事故の発生から40日が経った現在、ドイツでは原子力発電を早急に全廃することがすでに既定路線となっている。原発の稼働延長政策を支持する声は同政策を推進してきた与党内からも消えており、連邦政府は原子力から再生可能 […]

福島第1原発事故の発生から40日が経った現在、ドイツでは原子力発電を早急に全廃することがすでに既定路線となっている。原発の稼働延長政策を支持する声は同政策を推進してきた与党内からも消えており、連邦政府は原子力から再生可能エネルギーへの転換に向けた包括法案を6月中旬にも議会で可決させる計画を固めた(表を参照)。ただ、政策を急転換した関係で具体策は固まっておらず、今後2カ月以内に市民と経済界がともに支持できるバランスの取れた政策を策定できるかは不透明だ。

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メルケル連邦首相は15日、国内16州の首相と会談し、原発を可能な限り早く廃止することで合意した。全廃を実現する時期については新設のエネルギー安全供給倫理委員会が5月下旬に提出する答申を踏まえて決定するとして明言を避けているものの、2022年以前に設定するとみられる。

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2022年というのは原発廃止を法制化した中道左派のシュレーダー政権(当時)が2000年に定めたライン。中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と自由民主党(FDP)からなる現与党は昨年秋の法改正でこれを2040年頃へと延長した経緯がある。州の代表で構成される連邦参議院(上院)では現在、与党が過半数割れとなっているため、法改正を実現するには野党の支持が欠かせず、原発廃止の時期を2022年以前に設定せざるを得ない。

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原発は国内発電量の2割以上を占めてきた。このため、全廃するにはその穴埋めが必要で、政府は再生可能エネルギーの普及を加速させるほか、ガス発電所などの建設も後押しする考え。また、◇今後大幅に増加する見通しの北海やバルト海の風力発電パークから電力を全国に供給するために、高圧送電網を計3,600キロメートル拡張する◇家屋の断熱効率向上に向けた補助金を大幅に増やすなどの措置を通して省エネを促進する――などの計画も練っている。

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国内投資や雇用に悪影響も

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これらの政策を実施するには巨額の資金が必要となる。政府はその額を6月上旬に明らかにするとして現時点では明言を避けている。

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一方、政府系の省エネ・再生可能エネルギー研究促進企業であるDenaのシュテファン・コーラー社長が『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』紙に対し明らかにしたところによると、最終消費者である家庭や企業の電力料金負担額は2020年までに現在(2010年)の計800億ユーロから最大1,000億ユーロへと膨らむ見通しだ。一般世帯向け電力料金は現在の1キロワット時当たり約23セントから同5セント程度、上昇する計算という(グラフを参照)。

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財界ではエネルギーコストの上昇に対する警戒感が強く、大口需要家が加盟する経済団体VIKのブリギット・オルトリープ専務理事は経済紙『ハンデルスブラット』に対し、エネルギー集約型の企業にとって電力料金の負担はすでに限界に達していると指摘。現在よりも重くなれば国内投資と雇用に悪影響をもたらすとの見方を示した。

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法案作成と議会での審議期間が極端に短いことに対しては、疑問の声も出ている。野党・社会民主党(SPD)のシュタインマイヤー院内総務はFAZ紙に対し、政府が求める審議日程では法案の個々の内容を検討する時間がないと批判。連邦議会(下院)のラメルト議長(CDU)は、全会派の承認がなければ迅速立法手続きを適用しないとの立場を明らかにした。

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メルケル首相はエネルギー政策の大転換には包括的な議論が必要との立場を打ち出している。それにもかかわらず、法案を異例の速さで成立させようとする姿勢には不自然さがただよう。

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