業務命令と信教の自由が正面からぶつかることは日本ではまれである。だが、ドイツには信仰心の篤いキリスト教徒やイスラム教徒が比較的多く、裁判に発展することも珍しくない。ここでは雇用主の指示を無視して通話時に宗教的な表現を使い続けた職員のケースをお伝えする。
\この職員はテレフォンショッピング大手QVCのコールセンターで働いていた。顧客から注文を受けた際は電話の最後に「QVCでご購入いただきありがとうございます。良い一日をお過ごしください」と言う決まりになっていたが、同職員はさらに「神の祝福があらんことを」との一語を付け加えていた。これを受け上司は宗教的な表現を使わないよう厳しく注意したが、改めなかったため即時解雇を通告した。原告はこれが信教の自由の侵害に当たるとして解雇の取り消しを求める裁判を起こした。
\裁判では第1審のボーフム労働裁判所で原告が勝訴。これに対し第2審のハム州労働裁判所は4月20日、原告の訴えを退ける判決(訴訟番号:4 Sa 2230/10)を下した。判決理由で裁判官は、原告は「神の祝福があらんことを」と言わないと内面的な苦痛を覚えるという主張を裁判で十分に説明できなかったと指摘。そうである以上、上司の命令を無視し続けた原告の行為は労働契約違反に当たり解雇は妥当だとの判断を示した。最高裁への上告は認めていない。
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