自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)が同社と子会社スカニア、および出資先のMANの3社からなるトラック分野のアライアンス実現に向けて大きな一歩を踏み出した。MANに対する株式公開買い付け(TOB)方針を明らかにしたのだ。3社の事業協力が思うにように前に進まないことを受け、協業実現の障害を取り除く狙いとみられる。
\VWは9日、MANに対するTOB計画を発表した。ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)の承認を経て5月末までに計画の詳細を公表する予定だ。
\VWによると、TOB価格は議決権付きの普通株で1株95ユーロ、同権なしの優先株で60ユーロ程度となる見通し。
\MANに対するVWの出資比率(普通株ベース)はこれまで29.9%だった。同比率をこのほど30.47%に引き上げたため、VWは証券法の規定(30%超過ルール)により他の株主から株式を買い取る提案の提示を義務づけられた。
\他社を買収する場合は通常、市場価格にプレミアムを上乗せする。プレミアムがないと株主がTOBに応じないためだ。
\だが、VWの提示額は極めて低く、普通株の95ユーロはTOB計画発表前の6日の終値(96.52ユーロ)を下回る。優先株についても過去3カ月間の加重平均株価と同額に設定しており、TOBに応じる魅力は全くない。今回のTOBでVWがMANの買収を狙っていないことがここから読み取れる。
\VWのハンスディーター・ペッチュ取締役(財務担当)はこれに絡んで、普通株ベースの出資比率を35~40%に引き上げれば株主総会で過半数を確保し、MANを事実上支配できると狙いを語った。BaFinがTOB計画を一度承認すれば、TOB期間の終了後に市場で株式を適宜50%まで買い増すことができるという事情が背景にある。
\TOBを実施すると株価が高騰し、買収総額が膨らむため、VWは財務負担が大きい過半数株の確保を意図的に回避する。他の株主が持つ株式をすべて買い取った場合の買収価格が約100億ユーロに達するのに対し、普通株の出資比率を35~40%に引き上げるのにとどめれば、10億~15億ユーロ程度ですむという。
\ \MANを支配下に置きカルテル懸念払しょく
\ \スカニアとMANは昨年春、VWに背中を押される形で事業提携交渉を開始した。部品調達や開発、生産の領域でシナジー効果を引き出すことが狙いで、3社連合構想を主導するVWのピエヒ監査役会長(MAN監査役会長を兼任)は将来的にコストを最大10億ユーロ圧縮できると見込んでいる。
\だが、スカニアとMANの協力関係は一向に具体化していない。これまでは、MANが2006年にスカニアを敵対的に買収しようとした経緯があるため、両社のわだかまりが原因とみられていたが、今回のTOB計画発表を受けて、カルテル法上の疑念もネックとなっていることが分かった。
\『南ドイツ新聞』によると、例えば鉄鋼の調達をスカニアとMANが共同化する場合、両社は調達規模や価格などの情報を相互に交換しなければならない。これが違法なカルテルに当たる可能性があるため、調達提携が棚上げになっているもようだ。VWがMANに対し30%超を出資することが当局に承認されれば、MANは法的にみてスカニア同様、VWの支配下に入るため、両社が調達を共同化してもカルテルの懸念は生じないという。
\30%超への出資比率引き上げのカルテル法上の審査は欧州連合(EU)の欧州委員会が実施する。VWのペッチュ取締役は同審査が下半期に終了するとの見方を示した。
\『ファイナンシャル・タイムズ(ドイツ版、FTD)』紙によると、同出資計画は欧州委に承認される公算が高い。MANがかつてスカニアの買収を計画した際、欧州委は無条件で承認したためだ。市場での2社の勢力は当時から大きく変化しておらず、欧州委がVWの計画を認めないことは考えにくいという。
\