業務に社員の自家用車を用いるのはできるだけ避けた方が良いことは以前、このコーナーでお伝えした(2011年3月16日号)。雇用主に賠償責任が発生する恐れがあるためだ。だが、時には社員の車をどうしても利用しなければならないケースもある。ここでは業務上のやむを得ぬ理由で同僚の車を運転した社員が交通事故に巻き込まれた問題で、車の持ち主である社員と雇用主が争った係争をお伝えする。
\裁判を起こしたのは運送会社に勤務する運転手。この運転手は2009年7月末、輸送業務の途中で病気になり仕事ができなくなった。このため、連絡を受けた上司は同僚の社員Aに対し、会社の敷地内に停めてあった原告の自家用車に乗ってトラックの停めてある場所に直行するよう命令した。Aは原告の代わりにトラックを運転し、原告は病気が治ったあとに自家用車で戻る手はずとなっていた。原告は自家用車をAが運転することに同意していた。
\Aはトラックの駐車場所に向かう途中で交通事故に巻き込まれ、車は損傷した。これを受け原告は雇用主に損害賠償を要求。雇用主が拒否したため、提訴した。
\裁判は第1審のリューベック労働裁判所が原告の訴えを棄却したものの、第2審のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州労働裁判所は逆転勝訴を言い渡した(訴訟番号:6 Sa 350/10)。判決理由で裁判官は、◇損害が業務の遂行のなかで発生した◇マイカーの利用を雇用主(上司)が認めていた――の2条件を満たしている場合は雇用主に損害賠償義務が生じるとの判断を示した。「諸般の事情から判断して必要と認められる費用を業務の受託者が業務を遂行するために負担した場合、業務の委託者はその費用の引き受けを義務づけられる」とした民法典670条の規定を類推解釈(当該事項に関し直接規定する条文がない場合に他の同種の条文を類推適用すること)してこの判断を導き出した。
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