他社を買収する場合、事業移管がいつ成立するかが問題になることは普通ない。何月何日付で移管するかが契約で取り決められ、その通りに実施されるからである。だが、そうしたことが当てはまらないケースでは事業移管の成立時期が法的に定かでないことがある。この問題に関して最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が9月27日の判決(訴訟番号:8 AZR 826/11)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
\裁判は倒産した金属加工メーカー(A社)を買収した企業(B社)を相手取って連邦雇用庁(BA)が起こした。
\経営難に陥ったA社は2007年3月、B社に販売を全面委託する契約を結んだ。だが、その時点で社員に給与を支払えないなど資金繰りに行き詰っており、5月29日に会社更生手続きの適用を裁判所に申請。これを受けて全従業員(29人)は31日付で同社との労働契約を解除した。給与は3月から未払いになっており、BAは法律の規定に従い3~5月の3カ月分の給与相当額(倒産手当=Insolvenzgeld)を従業員に支給した。
\B社は6月に入ってA社の工場で生産を開始し、同月中旬までにA社の元社員18人を採用した。BAはこれを受けて、B社がA社の事業を継承したと判断し、A社の元社員に支払った倒産手当の返済をB社に要求。B社が拒否したため提訴した。A社との間で販売の全面受託契約を結んだ時点でB社への事業移管が成立したと判断したのである。
\第1審のヘアフォード労働裁判所は原告勝訴を言い渡した。一方、第2審のハム州労働裁判所は1審判決を破棄し、最終審のBAGも第2審判決を支持した。判決理由で裁判官は、事業移管が成立した時期はB社がA社の生産手段を実際に利用した時点(6月)だと指摘。販売契約の締結時点では移管が行われておらず、3~5月分の倒産手当をB社がBAに返済する義務はないとの判断を示した。
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