欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2012/11/14

総合 - ドイツ経済ニュース

「財政・経済政策はユーロ加盟国の自己責任で」=5賢人委

この記事の要約

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は7日、2012年版『経済鑑定書』をメルケル首相に提出した。景気については主要経済研究所が10月に発表した共同作成の『秋季経済予測』同様に、大幅な成長鈍化を予想(下の表を参照)。 […]

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は7日、2012年版『経済鑑定書』をメルケル首相に提出した。景気については主要経済研究所が10月に発表した共同作成の『秋季経済予測』同様に、大幅な成長鈍化を予想(下の表を参照)。これと言って新鮮味のある判断は示していないものの、ユーロ危機に関しては独自の打開策を提示した。また、政府の経済・財政政策に対しては厳しい批判を投げかけた。

\

5賢人委は現在のユーロ圏の危機を(1)ギリシャやスペインなど一部加盟国の「財政危機」(2)財政悪化国の金融機関に対する信頼が低下する「銀行危機」(3)財政悪化国を中心に広がる景気後退と企業の国際競争力の低下として現れている「マクロ経済の危機」の3つの次元で把握。そのうえで、これらの次元の危機の相互作用により危機が増幅されているとの認識を示した。具体的には財政悪化国が自国の銀行を救済するために資金を投じると財政が一段と悪化することや、財政再建を進めると内需が弱まり税収も落ち込むなどの問題を指摘した。

\

同委はこれらの問題の解決に向けて「マーストリヒト2.0」と題する解決策を提示した。単一通貨ユーロの創設を取り決めたマーストリヒト条約の深化を狙った提言だ。

\

提言はまず、財政危機の打開策を提示。財政・経済政策はマーストリヒト条約の原則に則り将来も加盟国の自己責任で行うべきだとの立場を打ち出した。財政に関する加盟国の主権の一部を欧州委員会などに移管し、各国の財政・税制政策を統制すべきだとするショイブレ独財務相の主張を明確に否定した格好だ。また、財政政策の責任を加盟各国が負う以上、財政が行き詰る国も出てき得るとして、デフォルト(債務不履行)に関するルールの策定が必要だとの認識を示した。

\

銀行危機については、EUが創設を目指す「銀行同盟」を通して解決を目指すべきだとの立場を打ち出した。ただ、ユーロ圏内の銀行監督権限を欧州中央銀行(ECB)に持たせるとする10月のEU首脳合意に対しては、ECBが銀行監督業務を兼務するようになると本来の任務である金融政策を中立的な立場から実行できなくなるリスクがあると批判した。

\

マクロ経済の危機への対策としては、労働法制や税制などの構造改革を通して、長期的なスパンで取り組む以外に手がないとの認識を示した。その際、財政再建を急ぐ結果、恐慌を招くような事態は回避しなければならないとしている。

\

\

診察料廃止などを批判

\

\

ドイツの財政については、2012年の財政収支がわずかながら黒字に転換するとの見通しを示した。ただ、黒字化は好景気を受けて税収と社会保険料収入が増加したためで、財政再建の手綱を緩められる状況にはないとも指摘。政府が先ごろ、医療機関の診察料廃止や自宅保育手当の導入、低額年金受給者への支給額上乗せ方針を打ち出したことは構造的な歳出を増加させ好ましくないと批判した。

\

また、福島原発事故を受けて打ち出した「エネルギー転換政策」についても、電力料金をいたずらに押し上げていると指摘。再生可能エネルギー電力の助成制度を抜本的に見直すよう促した。

\

ドイツ経済については、ユーロ危機などを背景に企業の投資活動が鈍っているとの認識を示した。5賢人委によると、年内は景気が低迷する見通しで、国内総生産(GDP)成長率は昨年の3.0%から今年は0.8%へと大幅に低下する。輸出はユーロ安の効果もありユーロ圏外向けが好調を保ち、全体で3.9%増加する。

\

来年は企業投資が持ち直し、内需は緩やかに回復。GDP成長率は横ばいの0.8%を保つ。

\

雇用情勢は今年も来年も安定しており、個人消費は景気のプラス要因であり続ける。

\