独最大手銀行のドイツ銀行と同2位コメルツ銀行が2012年通期決算を相次いで発表した。両行とも利益が大幅に減少したのが特徴。08年のリーマンショックを受けて、金融システムリスクに対する規制強化の動きが世界的に強まるなど銀行業界を取り巻く環境が大きく変化していることが背景にある。大手銀行は経営スタイルの見直しを迫られており、各行は負の遺産の清算と新たな事業モデルを模索中だ。ドイツ銀のアンシュー・ジェイン共同最高経営責任者(CEO)は「われわれは長い旅路の出発点にいるに過ぎない」と現状を表現した。
\ドイツ銀行が1月31日発表した2012年12月通期決算の最終利益は7億ユーロとなり、前年の43億ユーロから大幅に減少。赤字となった08年12月期以来の低水準に落ち込んだ。訴訟リスクの引当金やのれん代の減損処理の影響で第4四半期(10~12月)の最終損益が前年同期の黒字(2億ユーロ)から22億ユーロの赤字に悪化したことが響いた。
\同社はメディア大手キルヒの経営破たん(02年)に伴う損害賠償訴訟や、Libor(ロンドン銀行間取引金利)の不正操作問題で巨額の損賠・課徴金支払いを命じられる恐れがあり、法的リスク関係の引当金を第4四半期に10億ユーロ積み増した。また、財務改善に向けた新経営戦略「Strategie 2015+」に伴って投資銀行、資産管理部門を中心に総額19億ユーロに上る資産を減価償却した。シュテファン・クラウゼ財務担当取締役によると、米投資銀行バンカーズトラストの買収(1998年)など、03年以前に実施した出資を中心に評価替えの必要性が出たという。
\Strategie 2015+はリーマンショックに端を発する業界の構造転換と銀行規制強化を踏まえ昨年9月に打ち出したもので、2015年までに年間コストを45億ユーロ圧縮することなどを目指している。経営陣はコストの大きな要因である人件費にもメスを入れる方針で、メディア報道によると、今年は賃金協定の適用対象となっていないドイツ国内の行員2万5,000人の給与を据え置くほか、投資銀行、資産管理部門を中心に2,000人規模の人員削減を実施するもようだ。12年12月期のボーナスプールは11%減の32億ユーロに引き下げた。
\12月通期の自己資本利益率(ROE)は1.1%にとどまり、15年の達成目標である12%以上を大きく下回った。それにもかかわらず、ドイツ銀の株価は同日終値で前日を2.9%上回った。12月末時点の狭義の中核自己資本率が1年前の6%から8%に上昇したことが、市場で高く評価されたためだ。今後は3月末に8.5%へと引き上げ、15年までには10%の達成を目指す。
\ \コメルツ銀、繰延税金資産取り崩し
\ \独2位銀行のコメルツ銀行が4日発表した2012年12月期暫定決算の最終利益は600万ユーロとなり、前年実績(6億3,800万ユーロ)の1%未満に急減した。繰延税金資産の取り崩しで6億7,300万ユーロ、ウクライナ子会社Bank Forumの売却損で2億6,800万ユーロを計上したことが影響。これら経費の大半を計上した第4四半期に限ると7,200万ユーロの赤字となった。12年12月期の営業利益は特別費計上前ベースでは約12億ユーロに達し、前年(5億700万ユーロ)のおよそ2.4倍に拡大した。
\繰延税金資産を取り崩したのは今後の利益見通しが従来予想を下回るのが確実となったためだ。過去の損失一部をバランスシートに計上せずに繰り越して将来の利益と相殺する計画は、将来の利益が想定よりも少ないとその分だけ損失計上を余儀なくされる。
\同行は不動産金融大手ユーロヒポの買収(05年)とドレスナー銀行の買収(09年)が利益の足かせとなっている。主力のリテール業務では◇歴史的な低金利◇銀行間の競争が激しい◇顧客の間で銀行の利幅の小さい預金商品を好む傾向が強い――ことがネックとなり収益力が低迷している。
\経営陣は収益力の強化に向けて16年までに総額20億ユーロを投資するほか、フルタイムの行員4,000~6,000人を削減する方針で、2013年第1四半期にリストラ費を約5億ユーロ計上する見通しだ。
\