法定最低賃金がドイツの政治の主要テーマとして浮上してきた。9月の連邦議会(下院)選挙をにらみ中道左派の野党は全業界一律の最低賃金導入を要求。これに対し中道右派の与党は独自の対抗策を打ち出し、連邦議会選挙前にも最低賃金の新ルールを導入する意向だ。野党が選挙に勝ち政権を取得した場合は、欧州連合(EU)の多くの国で導入されている全業界拘束型の最低賃金がドイツで初めて導入されることになる。
\EUでは27カ国中20カ国で全産業を拘束する最低賃金が法律で定められており、そうした制度がないのはドイツ、オーストリア、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、イタリア、キプロスの7カ国に限られる(下のグラフを参照)。
\ドイツに全業界一律の最低賃金がないのは、労働条件は労使が政治の介入を排して自主的に結ぶ協定を通して定める制度、「労使協定の自律(Tarifautonomie)」が深く根づいているためだ。法定賃金はこの制度に抵触するとみなされ、1990年代後半までは一切導入されなかった。現在も例外的なルールにとどまる。
\法定最低賃金の本格的な導入を求める声は2000年代の後半に入って強まってきた。経済競争力の強化に向けて2000年代の前半に行われた構造改革(アジェンダ2010)の副作用として低賃金セクターで働く被用者が増えたことが背景にある。構造改革は熟練技能を持たない長期失業者が労働市場に足がかりを得るという点では一定の効果があったものの、フルタイムで働いても生活に必要な収入を稼げない就労者が発生するという問題も生み出したのである。
\ドイツ経済の競争力回復が鮮明になっていることもあり、労組や野党はすべての業界を拘束する法定最低賃金の導入を要求している。要求額は最大野党の社会民主党(SPD)が1時間8.5ユーロ、緑の党が7.5ユーロ、左翼党が10ユーロ以上。
\野党は現在、州政府の代表からなる連邦参議院(上院)で過半数票を押さえており、SPDが主導する州は3月にも法案を提出する意向だ。
\最大与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CDU)はこれに対抗するため、労使協定のない業界に最低賃金を導入できるルールの導入を目指す。全業界一律の最低賃金に対しては反対の立場を取っており、最低賃金は各業界や地域の事情を反映できるようにする考え。連立先の自由民主党(FDP)との間で政策方針を調整できるかが法案成立のカギを握る。
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