大抵の従業員は職場に私物も持ち込む。では、そうした私物が職場内で盗まれた場合、被用者は雇用主に対し損害賠償の支払いを請求できるのだろうか。この問題をめぐる係争でハム州労働裁判所が1月21日に判決(訴訟番号:18 Sa 1409/15)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は病院勤務の職員が雇用主を相手取って起こしたもの。同職員は2014年夏のある日、総額で約2万ユーロ相当の宝飾品と時計を職場に持ち込み、自分の机の引き出しの中に入れ鍵をかけた。その日の夕方、銀行の貸金庫に預けようと考えていたのである。
だが、同職員は仕事が忙しかったこともあり、銀行に行くのを忘れてしまった。このため宝飾品と時計は引き出しの中に置き忘れた格好となった。
数日後に泥棒が入り、同職員の机のカギが壊され宝飾品と時計はすべて盗まれてしまった。犯人は同職員の同僚のロッカーを破壊。中にあった白衣のポケットからマスターキーを取り出し同職員が勤務する部屋に侵入した。
これを受けて、同職員は雇用主に損害賠償の支払いを請求した。マスターキーの安全な保管を雇用主が被用者に指示していなかったことが過失に当たると判断したのである。
原告の同職員は1審で敗訴し、2審のハム州労裁も1審判決を支持した。判決理由でハム州労裁の裁判官は、雇用主に保護義務が発生するのは被用者が◇常に持ち歩いていなければならない物あるいは定期的に持ち歩いている物◇仕事で直接ないし間接的に必要とする物――に対してだけだと指摘。原告が職場に持ち込んだ宝飾品と時計はそうした性質の物ではなく、被告に損賠支払いの義務はないとの判断を示した。