中国家電大手の美的集団は16日、独産業用ロボット大手クーカに対する株式公開買い付け(TOB)計画を正式発表した。TOBの条件は5月に表明した計画概要と変わりがなく、出資比率を現在の13.5%から30%超に引き上げることを目指している。同TOBをめぐってはドイツ政府などの懸念を受けて美的集団が持ち株比率を最大49%に制限するとの観測があるものの、これについての見解は示さなかった。
美的集団はクーカの1株につき現金115ユーロを支払う考え。これは美的集団がクーカへの出資比率を10.2%に引き上げたことを公表した日の前日(2月3日)終値を59.6%上回る水準で、買収方針表明前日(5月17日)の終値に比べても36.2%高い。買い付け期間は6月16日~7月15日の1カ月となっている。
同社はTOB方針を5月18日に表明した際、TOBの実施後もクーカの独立性を保つとして、支配契約を結んだり同社の上場を廃止する考えはないとの立場を示した。知財権も尊重するとしている。今回もこれらの点を改めて強調した。
クーカは16日の声明で、TOB提案の内容を検討することを明らかにした。2週間以内に立場を表明するとしている。ティル・ロイター社長は「我々は美的集団との交渉に入る。決定的に重要なのはわが社と株主、顧客、従業員の利害を長期的に保つ、拘束力のある契約を締結することだ」との立場を示しており、TOB提案の受け入れに前向きだ。
美的集団の株式買い取り価格が高いこともあり、同社は出資比率を50%超に高め、クーカを子会社化する可能性がある。
クーカはドイツの産学官が一体となって推し進める「インダストリー4.0」の中核的な企業の1社と目されている。このため美的集団に買収されると最先端技術が流出するとの懸念があり、ドイツ政府は美的集団の計画を阻止したい考えだ。
政府にとって最善のシナリオは欧州企業が対抗TOBを打ち出し美的集団の計画をとん挫させるというもの。ただ、電機大手の独シーメンスがクーカ買収に関心はないと表明するなど対抗TOBの動きは出ていない。
このため政府は美的集団がTOBでクーカの過半数株を確保した場合、美的集団が持ち株比率を49%に抑え、それを超える分については事後的に転売することに期待をかけている。
美的集団は今回のTOB計画発表で、出資比率を49%以下に抑える考えを示さなかった。TOBを実施する際に株式買い取りの上限を設定することはドイツの法律で禁じられているためだ。ただ同社は声明で、クーカの浮動株比率が今後も高くとどまることを歓迎するとしており、過半数株の取得を見合わせる可能性もある。
クーカには美的集団のほか、独機械大手のフォイトが25.1%、独複合企業ローグループのオーナー兼会長であるフリードヘルム・ロー氏が10%をそれぞれ出資している。美的集団が出資比率を仮に49%へと引き上げ、かつフォイトとロー氏がTOBに応じない場合、大株主3者の持ち株比率は計84.1%で、浮動株比率は15.9%となる。