雇用主との個別契約で企業年金の受給を保障された被用者を、雇用主が従業員代表との社内協定で取り決めた集団的な企業年金の受給対象から除外することは認められるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が7月19日の判決(訴訟番号:3 AZR 134/15)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は被告企業との1987年の個別契約で企業年金の受給を保障された被用者が同社を相手取って起こしたもの。同社は翌年、従業員代表の事業所委員会(Betriebsrat)との間で、84年4月1日以降に入社した社員全員を対象とする集団的な企業年金制度を取り決めた。原告は86年7月1日の入社であるため、同制度の適用対象となっていた。同制度を取り決め社内協定はその後、繰り返して更新された。
個別契約で企業年金の受給を保障された被用者は、同社内協定の07年の更新で集団的な企業年金制度の適用対象外とされたことから、原告はこれを不当な差別として提訴。2審のヘッセン州労働裁判所はこの主張を認め、社内協定に基づく企業年金を原告に支給することを被告企業に命じた。
一方、最終審のBAGは2審判決を破棄し、ヘッセン州労裁に裁判を差し戻した。判決理由でBAGの裁判官は、個別契約で企業年金の受給を保障された被用者を集団的な企業年金制度の適用対象外としたことが不当な差別に当たるかどうかを同州労裁は十分に吟味していないと指摘。個別契約に基づく企業年金の支給額が社内協定に基づく年金支給額を明確に下回るようなら不当な差別に当たるが、ほぼ同額であるなら差別に当たらず、個別契約に基づく企業年金支給に問題はないとの判断を示した。ヘッセン州労裁はこの基準に基づいて判決を下すことになる。