託児施設不足で職場復帰できず、保護者に損賠請求権はあるか

ドイツの市町村は2013年8月以降、需要に見合った託児定員を確保することを社会法典(SGB)第8編24条で義務づけられている。だが、実際にはそれが不可能であることが分かったため、政府は子供を託児施設などに預けず自宅で育てる親に手当を支給するルールを導入した。損害賠償請求訴訟のリスクを回避するためである。支給額は現在、子供1人当たり150ユーロと定められている。このルールに関する係争で通常裁判の最高裁である連邦司法裁判所(BGH)が10月に判決(訴訟番号:Ⅲ ZR 278/15、302/15、303/15)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判はライプチヒ市に住む女性3人が同市を相手取って起こしたもの。出産後に市の託児施設に応募したが、定員オーバーで子供を預けることができず、予定通りの期日に職場復帰できなかった。このため予定していた収入が得られず、家計に大きな負担が出たため、損賠訴訟を起こした。3人の請求額はそれぞれ2,182.20ユーロ、4,463.12ユーロ、7,332.93ユーロだった。

原告は2審のドレスデン高等裁判所で敗訴したものの、最終審のBGHで逆転勝訴した。判決理由でBGHの裁判官は、公務の遂行に当たって第三者に対する義務に違反した場合は原則的に国や自治体が責任を負うとした基本法(憲法)34条の規定を指摘。市町村は2~3歳児向けに託児定員の確保をSGB第8編24条で義務づけられているにもかかわらず、ライプチヒ市がこの義務を順守しなかったことは違憲・違法だとして、原告には原則的に損賠請求権があるとの判断を示した。

BGHは裁判をドレスデン高裁に差し戻した。差し戻し審では原告各人に損賠請求権があるかどうかを吟味し、権利がある場合は損賠額を確定することになる。

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