差別をめぐる係争で差別を受けたと主張する側が差別の「間接証拠(Indizien)」を示した場合、相手側は差別がなかったことの証明を義務づけられる。これは一般平等待遇法(AGG)22条に記されたルールであり、相手方が証明できない場合は差別があったと認定。相手側はAGG15条1条の規定に基づいて差別を受けた側に損害賠償を支払わなければならなくなる。このルールに関して最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が1月26日に判決(訴訟番号:8 AZR 736/15)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は米貨物輸送大手の独法人を相手取って、ヘッセン州内にある同社の拠点Eに勤務するパートタイムの配達人が起こしたもの。原告は2011年12月に重度障害者の認定を受けている。
被告企業(独法人)は13年6月、拠点Eで勤務するパート配達員の契約労働時間を引き上げた。対象となったのは計16人いたパート配達員のうち14人で、原告と同僚Qは除外された。Qは障害者ではなく、他の拠点から数カ月前に転勤してきたばかりだった。
原告は勤務時間引き上げの希望を以前から上司に伝えていた。それにも関わらず勤務時間引き上げの対象にならなかったことから、AGGで禁じられた不当な差別に当たるとして提訴。勤務時間が仮に引き上げられていれば支給されていたであろう給与増額分の支払いを求めて損害賠償を請求した。
2審のヘッセン州労働裁判所はこの訴えを認め、損賠支払いを被告に命じた。判決理由で同州労裁の裁判官は、労働時間引き上げの対象から原告が除外されたのは差別の間接証拠に当たる「可能性」があると指摘。これに対し被告が反証を提示しなかったことから差別を認定した。
被告はこれを不服として上告。最高裁のBAGは被告の主張を認める逆転判決を下した。判決理由でBAGの裁判官は、AGG22条に記された差別の間接証拠とは差別があったことを「ほぼ確実に」推測させる証拠を指すと指摘。差別があった「可能性」だけでは間接証拠の要件を満たさず不十分だとの判断を示した。
BAGの裁判官はまた、ヘッセン州労裁の事実認定は不十分であるため、BAGはそれに基づいて判決を下すことができないとも指摘。裁判を同州労裁に差し戻し、審理のやり直しを命じた。