裁判の審理中に雇用主を誹謗した被用者を雇用主は解雇できるのだろうか。それともそうした発言は言論の自由とされ、解雇理由とすることができないのだろうか。この問題をめぐる係争で連邦憲法裁判所(BVerfG)が昨年11月に判断を示したので、ここで取り上げてみる(訴訟番号:1 BvR 988/15)。
この裁判は社内でいじめにあったとする被用者が雇用主を相手取って起こした損害賠償請求訴訟がきっかけとなった。原告被用者は同損賠訴訟の審理の最中、雇用主の弁護士に電話をかけ、審理のなかで自身についての嘘と誹謗を広められたなどと発言。雇用主はこれを受けて同社員に解雇を通告した。
同社員は解雇を不当として提訴し1審で勝訴したものの、2審の州労働裁判所は、原告が損賠訴訟やその他の機会に行った発言からみて被告と原告が雇用関係を維持することはできないと判断。そうしたケースでは被用者か雇用主のどちらかが雇用関係の解消を申請すれば、妥当な額の一時金を被用者に支給したうえで雇用関係を解消できるとした解雇保護法(KSchG)9条などの規定に基づき、雇用関係の解消を言い渡した。
これに対し原告被用者は、裁判中の発言を雇用関係解消の根拠とすることは基本法(憲法)で保障された「言論の自由」の侵害に当たるとして、連邦憲法裁に違憲訴訟を起こした。
同違憲訴訟で連邦憲法裁は原告の訴えを却下した。決定理由で裁判官は、損賠訴訟での原告の発言は言論の自由で保障されたもので、それ自体には問題がないとしながらも、裁判審理での発言が雇用主、上司、同僚に対する被用者の凝り固まった否定的な見方・態度を裏付けるものである場合は、雇用関係解消の理由にこの事情を含めることは不当でないとの判断を示した。
州労働裁判所による雇用関係の解消決定が適切であったかどうかについては、労働問題専門の裁判所が判断を下すものだとして、憲法裁の判断を示さなかった。