企業や公的機関が自らの組織内での業務経験を外部の組織での経験よりも高く評価することは、欧州連合(EU)内での自由な移動を認めるEUの基本原則に違反するのだろうか。この問題をめぐる係争でドイツの最高裁である連邦労働裁判所(BAG)が2月23日に下した判決(訴訟番号:6 AZR 843/15)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は2014年1月からベルリン州で勤務する女性教員が同州を相手取って起こしたもの。ドイツにはそれぞれ州での勤務経験を外部での経験よりも高く評価する労使の取り決め(州公共サービス労使協定=TV-L=16条2項)があり、原告が1997年から13年にかけて国内の他の雇用主(ベルリン州以外の雇用主)の下で積んだ職業経験は相対的に低く評価された。この結果、原告は給与等級で低い等級にランク付けられたことから、域内の自由移動を保障したEU法に違反するとして提訴した。つまり他の雇用主での職業経験が低く評価されると、EU域内での転職が難しくなり、域内自由移動の原則が実質的に損なわれると訴えたわけである。
原告は1審のベルリン労働裁判所で勝訴したものの、2審のベルリン・ブランデンブルク州労働裁判所で逆転敗訴。最終審のBAGも州労裁と同様の判断を示した。
判決理由でBAGの裁判官は、原告はドイツ以外のEU加盟国で勤務した経験がなく、また他のEU加盟国の職業資格も保持していないと指摘。そうしたケースではEUの域内自由移動ルールを根拠に不当評価を訴える権利が発生し得ないとの判断を示した。
自らの組織内での業務経験を雇用主が高く評価することは国内法にも抵触しないとしている。