イスラム教徒の女性の多くは宗教上の理由からスカーフ(ヒジャーブ)を着用している。では、企業が社員のスカーフ着用を禁止することは不当な宗教差別に当たるのだろうか。この問題をめぐる2つの裁判で欧州連合(EU)の欧州司法裁判所(ECJ)が14日に判断を示したので、ここで取り上げてみる(訴訟番号:C-188/15)。
まずはベルギーの警備会社G4Sで顧客対応の受付係として働いていたイスラム教徒の女性が同社を相手取って起こし裁判をみてみよう(訴訟番号:C-157/15)。
原告は2006年4月、勤務中にスカーフを着用する考えを伝えたところ、雇用主から、政治的・哲学的・宗教的なシンボルを外部から見える形で身に付けると、顧客に対して中立性を維持できなくなるため、許容できないとの回答を受けた。
同社はこれをきっかけに就業規則を変更し、職場において政治的・哲学的・宗教的なシンボルを外部から見える形で身に付けることを6月13日付で禁止した。
原告はスカーフ着用の意志を変えなかったため、同12日付で解雇された。これが宗教差別に当たるとして提訴した。
ECJの裁判官はこの裁判で、被告G4Sがイスラム教だけでなくすべての宗教のシンボル着用を等しく禁止したことを指摘。被告の措置は直接的な差別に当たらないとの判断を示した。
裁判官はそのうえで、被告が導入した新しい就業規則は一見中立的にみえても実際には特定の宗教の信者が大きな不利益を受ける間接差別の可能性があることを指摘した。ただ、顧客に対する中立義務を保つためであれば、そうした間接差別は正当化され得るとの見解を示した。
この判決では、すべての信仰に対し平等な姿勢を保つとともに、あらゆる顧客に対して中立を保つという2要件を満たしていれば、宗教的なシンボルの着用を禁止することは欧州連合(EU)基本権憲章16条で保障された「企業活動の自由」に当たり、違法性はないとの認識が示されたことになる。
もう1つの裁判はフランスのソフト会社マイクロポールにエンジニアとして勤務していたイスラム女性が同社を相手取って起こしたもの(訴訟番号:C-188/15)。原告は採用前の時点でスカーフ着用は問題になる恐れがあると指摘されていたものの、採用後にスカーフを被って勤務していた。あるとき顧客から苦情を受けたことからが、雇用主はスカーフ着用を止めるよう要求。原告が従わなかったことから解雇した。
ECJはこの裁判では、特定の顧客の要望に応えるためにスカーフ着用を禁止することは違法な差別に当たるとの判断を示した。