雇用主は被用者との間で、退職後に競合企業で勤務することなどを禁じる取り決めを行うことができる。これは「競業禁止(Wettbewerbsverbot)」と呼ばれるルールの1つで、営業令(GewO)110条に記されている。そうした取り決めを行う場合は競業禁止期間中に、退職した当該被用者に対し補償金(Karenzentschädigung)を支払わなければならない。これは、商法典(HGB)74条2項に明記されたルールで、補償金は最後に支給した給与の半額以上でなければならない。
この競合禁止ルールを巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が22日の判決で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は冷凍・冷蔵機器メーカーに2008年5月から13年12月にかけて勤務していた事務員が同社を相手取って起こしたもの。原告は労働契約のなかで、退職後2年間は自営業者としてであれ被用者としてであれ被告の競合企業のためにいかなる活動もしないことを被告との間で取り決めていた。原告はこれを守り、競業活動を14年1月から15年12月末の2年間、行わなかった。これを受け、補償金として被告の下で受給していた給与の半額(月当たり604.69ユーロ)の支払いを要求したところ、拒否されたことから提訴した。
原告は1審と2審で勝訴したものの、最終審のBAGは逆転敗訴判決を下した。判決理由でBAGの裁判官は、補償金について取り決めのない競業禁止の取り決めは無効だと指摘。取り決め自体が無効であるがゆえに、被告が原告に競合活動を禁止したことが無効であるとともに、原告が被告に補償金の支払いを請求する権利もないとの判断を示した。
また、原告と被告の労使契約のなかには、契約内容の一部が無効となった場合は契約の残りの部分をなおも有効とするとともに、無効な取り決めについてもその趣旨に最も近い有効なルールを適用するとした「分離条項(salvatorische Klausel)」があったものの、裁判官は分離条項があっても原告と被告が取り決めた競業禁止合意(今回の裁判で無効が確定した合意)は有効化されないとの判断を提示した。原告と被告の競合禁止合意を有効化するためには、遅くとも労働関係終了直後までに有効な合意へと改める必要があったとしている。